第48話 絶望の始まり

 ユウヤ達三人は少し遅い昼食を取るために、店を探して町の中を歩いて回った。

 三人はマユリのおすすめを聞きながら店を選び、選んだ店で店員とマユリのおすすめ料理を頼んで食べると店を出て町を適当に歩いて回り出した。


「で、これからどこに行く」

「ん~、服は買ったからな~」

「マユリは欲しいものとか無いの?」


 ユウヤの質問にどこに行くか考えているマユリにレティシアが問いかけると、マユリは辺りの店を見ながら考え始めた。

 しばらく、周りの店を見ているとマユリは一つの店を見つけて何か思い付いたような顔をした。


「じゃあ、あの店に行きましょ」

「あそこか?」

「なんの店なの?」

「行けば分かるわ」


 そういうとマユリは二人の手を引っ張って店まで連れて行った。

 店に入ると机や棚がたくさん並んでおり、棚や机の上には金属や木製のアクセサリーが大量に並んでいた。


「アクセサリー店か」

「ええ、ちょっと買いたいものがあってね」

「何を買いに来たの?」


 レティシアの質問にマユリは答えずに、微笑むと棚の一つに近づいて行った。

 そして棚の上に並んでいる同じ形の二つ並んだブレスレットを指さして二人に話しかけた。


「こういうの買いに来たの」

「これはなんだ?」

「お揃いのアクセサリーってこと?」

「そう」


 首を傾げるユウヤと、首を傾げながら問いかけてくるレティシアにマユリは頷いて返して説明を始めた。


「これは冒険者の間でパーティの証としてお揃いのアクセサリーを持ったりするのが流行ってるのよ。だから、私たちも友達の証としてお揃いのアクセサリー買わない?」


 マユリは少し不安そうな顔でユウヤとレティシアに首を傾げながら問いかけた。

 そんなマユリの顔を見てユウヤとレティシアは一瞬顔を合わせて頷くとマユリの方を向いて返した。


「ああ、いいぞ」

「私もいいわよ」

「ありがとう」


 二人の言葉にマユリは嬉しそうに微笑んで返した。

 それから三人は店にあるアクセサリーを見ながら買うもの話し合いながら選び始めた。

 時間をかけて話し合ったために、アクセサリーを買って店を出るころには夜になっていた。

 三人は左手首に銀色に光る金属のブレスレットに青い宝石のような石がついているアクセサリーを付けて店から出て来た。


「さて、大分時間が掛かったし晩飯を食べに行くか」

「そうね」

「何を食べに行くの?」

「レティシア、何か食べたいものある?」

「そうだな……」


 三人はレティシアの食べたいものに合わせてマユリが選んだ店に入り、談笑しながら晩御飯を食べると店から出て噴水広場まで歩いて来ていた。


「今日はありがとう、二人とも」

「気にしなくていい、俺も楽しかったから」

「私も今日はとても楽しかったわ」

「そう、なら良かった」


 マユリは嬉しそうに二人を見ながら深く頷いた。

 そんなマユリを見てユウヤは真剣な顔をしてマユリの顔を見て話し始めた。


「マユリ、少し話しておくことがある」

「何?そんな真剣な顔して、どうしたの?」


 マユリは真剣な顔をしているユウヤと、ユウヤの話すことを予想して真剣な顔になったレティシアを見て首を傾げて問い返した。


「実はな、俺とレティシアは三日後にはこの町を旅立つ」

「……え?」


 マユリは突然のことにユウヤが言っていることの意味が分からずに驚いた顔で首を傾げてしまった。


「それって、少し長い仕事に出るってこと?」


 マユリの問いにユウヤは首を振って否定して詳しく話し始めた。


「俺とレティシアはやることがあって急いでいかないといけない場所がある。だから、あんまりこの町に長居は出来ないんだ」

「……けど、またこの町に来るわよね」

「やることが終われば、また来るかもしれない。けど、次に来るのがいつになるか分からない」

「……そんな」


 ユウヤの言葉にマユリは先ほどまでの嬉しそうな表情は完全に消え、ただ驚きと寂しさからくる悲しみで心が満たされた。


「だから……」


 ユウヤがそんなマユリに何かを言おうとした時、町全体に何かガラスが砕けるような大きな音が響き渡った。

 その音に驚いたユウヤが周りを見渡すと、噴水の中にある精霊王の力を宿した宝石の色が薄くなり力が衰えていた。


「精霊王の守りが破られたのか!」


 何が起きたか理解したユウヤの真後ろから何かが落ちてきたような衝撃と音、そして巨大な魔力の気配がした。

 慌てて後ろを振り向くと、山の下に隠れていたあの魔物がマユリを包み込んでいた。


「マユリ!」


 ユウヤはマユリに手を伸ばすが、マユリは虚ろな目に涙を浮かべて弱弱しくユウヤに腕を伸ばしたが、魔物に完全に飲み込まれて見えなくなった。


「!?」


 マユリが飲み込まれたことにユウヤは驚き固まっていると、魔物はユウヤに黒い液体の触手を伸ばして薙ぎ払うように攻撃してきた。

 驚き固まっているユウヤは反応することが出来ずに触手にはじかれて吹き飛び噴水に叩きつけられた。


「ユウヤ!」


 レティシアはユウヤが吹き飛ばされたことで冷静になり、噴水に叩きつけられたユウヤに近づいた。


「大丈夫?」

「ああ、少し痛いが問題はない。それより」


 心配そうに声をかけたレティシアに軽く返したユウヤは、マユリを飲み込んだ魔物に視線を向けた。


「あれを何とかしないと……」


 魔物は黒い液体の体をうごめかせて段々と形を整えて行った。


「レティシア、俺とあいつを魔力障壁で囲んでくれ」

「けど、それじゃあ、ユウヤがあいつと一対一で戦うことに」

「大丈夫だ。すこしの間なら時間を稼げる。その間に冒険者ギルドに応援要請と一般人の避難を頼む」

「……分かったわ」


 ユウヤの言葉に少し悩んだレティシアは頷いて返して噴水広場に他に人がいないことを確認すると、噴水広場を魔力障壁を複数展開して球状に覆った。


「すぐに戻って来るわ」


 レティシアはそういうと、冒険者ギルドに向かう方向の道に張ってある魔力障壁をいったん解除して噴水広場から出た。

 それを見送ったユウヤは魔物に視線を戻すと、魔物は段々と人の形に近づいていった。

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