第33話 少女の悩み
マユリは隣に座ったユウヤを見て話し始めた。
「私、今は歌姫って呼ばれてるけど、昔は歌が好きで歌う暇さえあれば歌ってたどこにでもいる普通の子供だったの」
「普通の子供か……」
「ええ、私の家族は普通の平民で大した魔力も無いわ」
「けど、マユリからはそこそこの魔力を感じるが、魔導士の中でも中の上程度はあると思うが」
マユリの説明に疑問に思ったユウヤは首を傾げて問いかけると、マユリは首を横に振って話し始めた。
「私の魔力が増え始めたのは、私が十歳になる少し前くらいの頃からよ」
「魔力の総量を増やそうとしたのか?」
マユリはまた首を横に振って否定して続きを話した。
「してないわ。私はただ歌っていただけ、ただ、その頃より少し前から私の歌に精霊が反応するようになった」
「精霊が反応するように?」
「ええ、私にも理由は分からないけど、それが原因で私が歌姫と呼ばれることになったの」
「精霊が反応するから歌姫になったのか?」
マユリは俯き少し悲しそうな顔をして話し始めた。
「歌が上手いからってのもあるだろうけど、大きな理由はそれだと思う」
「しかし、精霊が反応すると何かあるのか?」
「ええ、私の歌が精霊の働きを活発にすることで周りの環境にかなりの影響を与えるわ」
「歌一つでそんなに変わるものか?」
「変わるから歌姫なんて呼ばれてるのよ」
ユウヤの言葉にマユリは今までで一番悲しく辛そうな声で呟いた。
「ちなみに、どんな影響が出るんだ?」
「豊作や浄水、災害予防などなど、いろいろあるらしいわ」
「なるほど、歌姫と崇めるわけだ」
豊作や浄水、災害予防どれも国が発展し運営する上でかなり重要になる。
それらを歌うだけで質を上げることが出来る上に、美しい歌を聞けるなら誰もが歌姫と呼び崇めるだろう。
「それで歌で評価されてないことに悩んでるのか?」
「さっきも言ったけど、歌は評価されてるわ。私が悩んでるのは、誰も私をマユリとして認識しなくなったことよ」
「どういうことだ?」
マユリの言葉にユウヤは首を傾げて聞き返した。
「私が歌姫と呼ばれ始めた頃は、みんなに歌を聞いて貰って嬉しかった。だから、みんなに喜んで貰おうと毎日のように歌っていたわ」
マユリの話をユウヤは黙ったまま真剣な表情で聞き続けた。
「けど、そんな日々を続けていると疲れてね。少し休みたかったんだけど、私が家から出ると大勢の人に囲まれてまともに一人でゆっくりと町を歩けなくなった。私は家族に迷惑を掛けないために家を引っ越して一人暮らしを始めたわ」
「大変そうだな」
「ええ、大変だったわ。けど、あの頃はみんなに歌を褒められて嬉しかったから、そんな生活でも良かったの。でも、たまには町をゆっくりと歩きたくなってフードを深くかぶって顔を隠して町に出たの。そしてたら誰も私に気づかなくてゆっくりと町を歩けたわ」
「顔を隠した程度でバレなかったのか?」
「ええ、最初は不思議に思ったけど、久しぶりに町を歩いて食べ歩いたり出来て嬉しかったから途中から気にしなくなったわ。けど、違ったわ」
「ん?」
マユリの言葉にユウヤは何を言っているのか分からなくなり首を傾げた。
「夕方帰る時、私は浮かれていて突然吹いた風でフードを抑えられなくてフードが外れたのよ。私は焦って顔を隠したけど、少しして違和感に気づいたわ」
「違和感?」
「ええ、私が顔を上げて回りを見ると誰も私を見てなかったの。おかしいと思って近くの人に話しかけてみたら、私が誰か分かってなかったわ」
「そんなことが……」
「その後、私は顔を隠さずに町を歩いて回ったけど、誰も私に気づかなかった。最後に私は親の家に行って家族に会ったわ。けど、家族でさえ私のことを知らなかった」
「!?」
マユリの言葉にユウヤは驚き目を見開いて何も言えなくなった。
「私は走って家に帰ったわ。実の親に知らないって言われて流石にショックだた。次の日私は歌姫として歌うために外に出たら、昨日のことが嘘のようにみんなは私を取り囲んだわ」
「歌姫として以外周りに認識されなくなったってことか?」
「ええ、歌姫のマユリとはみんな覚えてるけど、ただのマユリとしては誰も覚えてなかったの。それから休みたい時や休みの日は気づかれたくないと思って外に出ると、誰も私を歌姫として認識できないってことが分かったわ」
マユリはベンチから立ち上がり、ユウヤに向かい合う形で立った。
「これが私の悩み。この町に私を
マユリは悲しそうで泣きそうな顔でとても辛そうな声でユウヤに言った。
「……悪いな。俺には励ませるようなことは何も言えない」
「気にしなくていいわ。こんな話されても困るものね」
「……そうだな。じゃあ、俺も悩みを話そう」
「別に気にしなくていいわよ」
「同じように苦しんでいる人がいるって分かられば少しは楽になるだろ」
「……あなたの悩みが、私と同じくらい辛いものだっていうの?」
ユウヤの言葉にマユリは目を細めて軽くユウヤを睨んだ。
「さあな、それは人によって変わるからな」
「そう。じゃあ、聞かせてもらおうかな」
ユウヤはマユリと同じように立ち上がると、目を瞑り軽く息を吐くと目を開いて話した。
「俺は師匠を死に追いやり、母親も師匠と同じように俺のせいで死にかけている」
「どういうこと?」
マユリは一瞬目を見開き、ユウヤに聞き返した。
「俺の師匠を殺した敵が俺に言ったんだ。『私を引き寄せたのは貴様だな』と、そしてあいつは俺を殺そうとした。それを師匠が俺を庇って逃がしてくれた」
「!?」
「母親は魔法を病気で魔法を使えば死ぬ危険がある中、生まれたての俺を救うために俺の体内の魔力制御をしていたらしい」
「……師匠のことは分かったけど、母親はなんであなたの魔力制御をする必要があったの?」
「俺は魔力を排出する能力が極めて低い体質でありがなら、魔力生成量はかなり高かった。だから、俺は自分の魔力に生まれたその日から殺されかけていたんだ。それを母さんが救ってくれた」
「……そう」
マユリはユウヤの話を聞くと、俯いて何か考え始めた。
「あなたの言いたいこと、少し分かったわ。確かに、辛いのは私一人じゃないのよね」
「そうだな。けど、だからと言って自分が辛いことに変わりはない。だから、気休め程度に覚えておくといい」
「そうね、そうするわ」
「それじゃあ、俺はもう帰るよ」
「また、どこかで会いましょ。ユウヤ」
「そうだな」
ユウヤはマユリに軽く手を振りながらその場を離れて、宿に向かって歩き出した。
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