第32話 少女との出会い

 ユウヤは朝早く起きると、宿を出て町の外に向かい近くの森の人気のない場所に移動すると、刀を抜き基本の型の素振り十万回を始めた。

 一時間と少しの間素振りをした後、ユウヤは町に戻り宿に向かって歩き出した。

 宿に向かっている途中でユウヤはある少女を見つけた。

 長い金髪、黒いワンピースを着ていてどこにでもいそうな雰囲気の少女。

 しかし、雰囲気と異なり誰がも見惚れそうな絶世の美少女で、髪も絹のように滑らかなのが離れていても分かるほど、彼女は周りとかけ離れて美しく可愛らしい外見をしていた。


「あれは……昨日の歌姫か」


 ユウヤは少女が歌姫であることに気づくと同時に違和感を感じていた。


「昨日あれだけたくさんの人に注目されていたのに、今はまるで誰も彼女を知らないみたいな反応だな」


 周りの人たちは歌姫の顔を間違いなく見ているはずなのに誰も、歌姫に話しかけることはなく、知らない人とすれ違ったような反応で過ぎていく。

 彼女もそれをまったく気にしていないのか、昨日歌っていた時と違い不愛想な無表情で通りを歩いていた。


「少し話しかけてみるか」


 ユウヤはそう呟くと、意識を集中して周りの気配を探り人の意識がユウヤからすべて外れた瞬間、音を立てずに全速力で歌姫の少し背後に移動した。


「初めまして、歌姫様」

「!?」


 少女はユウヤに声を掛けられたことに驚き、ユウヤから距離を取り警戒するような顔でユウヤを睨んだ。


「あなた誰?何者?」

「驚かせてすまない。俺はユウヤ、冒険者だ」

「冒険者ね。それでどうして私が歌姫ってわかったの?」

「見ればすぐにわかるだろ?」


 ユウヤは少女の言葉の意味が分からず、首を傾げながら問いかけた。


「……そう、あなたには私が分かるのね」

「?」

「それで私に何か用?」


 少女は未だに警戒した目でユウヤを見ながら問いかけてきた。


「その前にここから移動しよう。道の真ん中で立ち話は邪魔になるからな」

「……それもそうね」


 二人は無言のまま歩くと人気のない場所に着いた。

 歌姫は、水路の傍にあるベンチの座りユウヤに視線を向けて問いかけた。


「それで用って何?」

「その前に名前を教えてくれないか?」

「私のこと知らないの?」

「昨日この町に着いたばかりでな」

「そう。私はマユリ、町の人たちには歌姫って言われているわ」

「マユリか」

「それであなたは何しに来たの?」


 マユリは呆れたような顔でユウヤに質問した。


「ああ、聞きたいことがあったんだ」

「聞きたいこと?」


 ユウヤの問いにマユリは首を傾げて問い返した。


「なんで悲しそうに歌ってるんだ?」

「!?」

「質問が悪かったか?どうしてあれだけ歌が上手なのに、歌ってるお前は悲しそうなんだ?」

「あなたどこまで知ってるの?」


 警戒が薄まっていたマユリはあった時と同じくらいまで警戒してユウヤを目を細めてみた。


「何も知らないって言っただろ。昨日の歌を聞いて悲しそう、いや、寂しいかな。まあ、どちらにしろそんな感情でなんで歌ってるんだ?」

「はあ、分かったわ。じゃあ、聞いてくれる私の悩み?」

「そうだな。俺から聞いたんだから最後まで聞くさ」


 ユウヤはマユリの隣に腰を下ろして聞く体制に入った。

 マユリはユウヤ隣に座ると、空を見上げながら話し始めた。

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