第20話 刀の修行

 ユウヤ達が仕事に出発した。

 町の門を出て道に沿って歩くと、龍壱は止まりユウヤ達に話しかけた。


「ここからは修行しながらいこうか」

「こんなところで修行するの?」

「違う、移動しながら修行するんじゃ」

「どういうこと?」


 龍壱の言葉に少し驚き問い返したユウヤに、首を横に振って否定したことでユウヤは首を傾げた。


「これから歩く時に使う筋肉を意識して、その筋肉だけに魔力を流して強化するんじゃ」

「いいけど、それって難しいか?」

「確かに常に流すなら簡単じゃろうな。しかし、使う時だけ流すとなると話が違う」

「使う時だけ!?それって一歩歩くごとに強化を解いてたりかけたりするってこと?」

「そうじゃ」


 龍壱の言葉に驚いて聞き返したユウヤに龍壱は頷いて肯定した。


「……わかった」

「あの……私はまだ修行しないんですか?」


 ユウヤと龍壱が話し終わったのを確認して、レティシアがドロシーに問いかけた。


「レティシアの修行はテントを立てた後から始めるわ」

「それでいいんですか?」

「集中力を使う魔導士にとって昼間から集中力を削るのはあまり良くないからね」

「わかりました」


 レティシアとドロシーが話終わると、龍壱の合図でまた歩き始めた。

 さきほどまでとは違い、魔力制御に意識を集中して歩いているユウヤのペースに合わせって少しゆっくりな移動になった。

 しばらく歩き昼頃になると、道から少し外れてドロシーが町で買った昼食を異空間収納から取り出し全員に配った。


「はあー、疲れたー」

「初めてにしては長時間もったの」

「魔力制御は小さいころに母さんに叩きこまれたからね。流石にここまで細かい調整を長時間するのは初めてだけど」

「そういえばそうじゃったの。まあ、今はゆっくり休め。休憩が終わったらまた再開じゃ」

「はーい」


 ユウヤと龍壱が話がながら昼食を食べていると、レティシアがユウヤに話しかけてきた。


「大丈夫?次はもう少しゆっくり歩こうか?」

「いや、大丈夫。大分慣れて来たから」

「分かった」


 二人が話している姿を見て龍壱とドロシーは微笑ましそうな顔で二人を見ていた。


「それじゃあ、そろそろ出発するかの」

「はい」


 龍壱の言葉に返事をして、全員が荷物をまとめて立ち上がり移動を再開した。

 午前に比べて移動が速くなっていることに龍壱が内心で少し驚き、ユウヤに感心した。


(まさか、ここまで呑み込みが早いとは、今夜からみっちり修行じゃの)


 龍壱はユウヤの成長の早さに合わせて修行の内容を濃くしていることを知らずに、魔力制御をしながら歩くことに集中していた。

 大分歩いて日が暮れ始めた頃、龍壱たちは道から外れたところでテントを張り、近くの落ちている枝を集めて焚火を付けた。


「それでは、これから夕食まで修行じゃ」

「休憩は?」

「テント張っている間に休めたじゃろ」

「まじか……」

「マジじゃ、さあ行くぞ」


 龍壱はユウヤを引きずるように少し離れた平原に連れて行った。

 レティシア達と離れたところに着くと、龍壱はユウヤに刀を抜くように言った。


「もう刀を振るのか?」

「まずは基本的が出来るているか確かめるから、基本の型で振ってくれ」

「わかった」


 龍壱に言われたようにユウヤは上から下、左上から右下、左から水平に右、左下から右上、下から上、右下から左上、右から水平に左、右上から左下の順番に刀を振った。

 龍壱はユウヤの振り方をよく見て、振り終わると話しかけてきた。


「振り方はとてもきれいで鋭いの、じゃが、刀の持つ手が逆じゃないか?」

「ああ、俺左利きだからこっちの方がやりやすいんだよ」

「本当は左利きも右利きと同じ持ち方なんじゃが、まあ昔の考えじゃ振りやすい方で持てばいいじゃろ」

「分かった」

「それじゃあ、刀の振り方はよく出来ているから、先ほどと同じように刀を振る筋肉だけに魔力を流して振ってくれ」

「流石にそれは……」

「安心せい、全ての型を十回ずつ振ったら今日は終わりじゃ、一回一回意識しながらゆっくり振っていいぞ」

「……分かった」


 龍壱に言われたようにユウヤは、先ほどと比べてかなり遅くゆっくりと何も切れないような速度で一回一回丁寧に振った。

 たった八つの振り方を十回ずつとは言っても丁寧に時間をかけて振っているためかなりの時間が掛かった。

 ユウヤが十回ずつ振り終えた時、日は完全に沈み真っ暗な夜空に綺麗なたくさんの星が広がっていた。


「はあ、はあ……」

「よくやったの。これを毎日続けるからの」

「ま、まじか……」


 ユウヤは大量の汗をかき肩で息をしながら、龍壱の言葉に返した。


「辛いかもしれんが、慣れれば何も考えずに魔力を必要な場所だけに集めることが出来るようになる」

「取り合えず、休ませてくれ」

「そうじゃの」


 ユウヤと龍壱は、焚火の灯りで明るいテントの方に向かって移動し、レティシア達と合流すると夕食を食べた後、ユウヤは気絶するように眠った。

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