第21話 魔法の修行
ユウヤの修行のためユウヤと龍壱がテントから離れたところに移動してすぐにレティシアとドロシーも魔法の仕事を始めた。
「それじゃあ、こっちも修行を始めましょうか」
「分かりました」
「そんなにかしこまらなくていいわよ」
「そんなに硬いですか?」
「もしかして、それが素なの?」
「はい、そうですけど」
「……」
ドロシーの問いにレティシアが無表情で何でもないかのように返すと、ドロシーは呆れたような顔で黙った。
「まあ、いいわ。それじゃあ、修行始めましょうか」
「はい」
「それじゃあ、魔力を頭に集中して情報処理能力を強化して」
「分かりました」
レティシアはドロシーに言われた通りに頭に魔力を集中させて情報処理能力を強化した。
「出来ました」
「それじゃあ……」
ドロシーはレティシアの言葉を聞いて軽く返事をすると、レティシアに向かって杖を高速で突き出し、目の前で止めた。
レティシアは情報処理能力を強化していたため、ドロシーの動きがゆっくりに見えたが、頭に多くの魔力を集中していたため身体強化が出来ておらずに体を動かすことが出来なかった。
「今ので何かわかったことはある?」
「頭に魔力を集中させ過ぎて、体を動かすことが出来ませんでした」
「そうね。他には?」
「体は動かせませんでしたが、ドロシーさんの動きは良く見えました」
「そうね。なら、どうすればよかったと思う?」
レティシアは目を瞑って集中して考え始め、少しすると目を開けて答えた。
「体を動かせる程度に魔力を回しておけば良かったかと」
「確かに、それなら私の攻撃は止められるだろうけど、見えても動けないスピードが上がるだけよ」
「それは……」
「つまり、さらに速い攻撃を止められない」
「……」
レティシアはドロシーの言葉に何も言えなくなり、黙って俯きまた考え始めたが、ドロシーが話しかけてきたため考えるのをやめた。
「レティシアは魔導士なんでしょ。ユウヤ君みたいに体を動かさなくても魔法があるじゃない」
「魔法ですか?けど、魔法は時間を発動するのには時間が掛かるし、アイリさんも近接戦闘は出来るようになった方がいいと言っていましたし」
「ええ、近接戦闘は大事よ。近接戦闘が出来れば魔力を節約できるしね」
「それでは、先ほどの場合はどうすればいいんですか?」
「魔法で防御すればいいのよ」
「え?」
ドロシーの何でもないかのように言う答えに、レティシアは意味が分からずに間の抜けた声を出して首を傾げた。
そんなレティシアを見て面白そうに笑ってレティシアに詳しい説明を始めた。
「かわいい反応するわね」
「!?そ、それより、説明してください」
「分かってるわよ。まず、体を速く動かすためには身体強化をする必要があるのはなんでか分かる?」
「体を鍛えるだけでは、限界があるからですか?」
「違うわ。神経伝達速度に限界があるからよ」
「どういうことですか?」
レティシアは首を傾げてドロシーに問いかけた。
「人が体を動かそうと思えば、脳から出た電気信号が筋肉に伝わることで体は動くわ。だから、電気信号が伝わる速度以上の動きは出来ないけど、身体強化は魔力の力で電気信号も早くなるから高速で動けるようになるのよ」
「なるほど」
「そして、今ユウヤ君が教えられているのが、魔力で電気信号を高速で移動させて筋肉に魔力を届けて強化すること。後は高速で動いても壊れないように体を魔力で保護すること、体の保護だけなら大した魔力は使わないから、それ以外の魔力を体を動かすことに使える」
「そうなんですね」
「ええ。けど、それはユウヤ君がやることね。レティシアがやるべきことは、魔力の高速移動で簡易の防御魔法と攻撃魔法を行うことが出来るようになってもらうわ」
「けど、魔力を発動するには魔法を構築するためにかなり細かい演算する必要があるから厳しいんじゃ」
レティシアはドロシーの説明にかなり難しいと思い暗い顔をして俯いた。
「大丈夫よ。頭を強化しているから、魔力さえ動かせれば高速で魔法を使えるようになるわ。それによく使う魔法は、反射で打てるようになるまで反復で練習してもらうから安心して」
「は、はい。頑張ります」
笑顔でかなり厳しい訓練内容をさも当たり前のように言うドロシーに反応に困ったレティシアは苦笑しながら返した。
「じゃあ、取り合えず魔力障壁を張る練習をしましょうか。出来るだけ早く張るように頑張ってね」
「分かりました」
レティシアはドロシーに言われた通りに頭に魔力を集中して情報処理能力を強化し、魔力障壁を張った。
「まあ、初めてにしてはなかなかの速度よ。けど、次はもっと早く張ることを意識して張ってね。それを魔力が無くなるまで続けてね」
「は、はい」
ドロシーの言われた通りにレティシアは魔力障壁を張り続けた。
ドロシーは魔力障壁を張るたびに、アドバイスをしてくれた。
それを数千回繰り返した後、レティシアは連続で魔法を使い続けたことで汗をかき肩で息をしていた。
「はい、お疲れ様。これを毎日繰り返すからね」
「毎日、です、か?」
「ええ、じゃないと慣れないでしょ」
「わかり、ました」
「それじゃあ、ユウヤ君達の修行が終わる前に汗流しましょうか」
「?どこで汗を流すんですか?」
レティシアはドロシーの言っていることが良くわからずに首を傾げて聞き返した。
ドロシーはそんなレティシアを見て笑い、詳しく話し始めた。
「魔法でお湯を出して体を洗うのよ。お湯には疲れないけど、汗を流して体を洗うことは出来るからね」
「けど、夜で暗いとはいえ誰かに見られたらどうするんですか?」
「大丈夫よ。だから、こっちに来なさい」
レティシアはドロシーに手を引かれて焚火から少し移動した。
ドロシーは焚火から少し離れると、光の球を作り出して宙に浮かせて何かの魔法を発動させた。
その直後先ほどまでかすかに見えていた景色が一切見えなくなった。
「え!?」
「師匠にこれは習わなかったでしょう。ブラックカーテン、光を遮断して外からも中からも見えなくする魔法よ」
「こんな魔法あるんですね」
「ええ、それに誰かが触れたらはじかれるから誰かが勝手に入って来ることはないわ」
「そうなんですか」
レティシアは興味津々な顔でブラックカーテンを見ていると、後ろから上着を掴まれて無理矢理脱がされた。
服を脱がされたことに一瞬遅れて気づくと、レティシアは手で上半身を隠しながらドロシーに振り返り文句を言った。
「いきなり何するんですか!」
「いいじゃない、女同士なんだし。もしかして、女の子が好きなタイプ?」
「違います!」
「なら、いいじゃない。それに下着も着けてるんでしょ」
「着けてますけど、だからって無理矢理脱がさなくていいじゃないですか!?」
「もう~硬いな。これからシャワー浴びるんだから、服は脱がないとだめでしょ」
ドロシーは言いながら残りの服を脱がせようと、手を出して近づいて来るのでレティシアは慌てて声をかけた。
「脱ぎます!自分で脱ぎますから!」
「ちぇ、つまらないな」
「からかわないんでください!」
「はいはい、ごめんなさい」
レティシアは呆れた顔でドロシーを警戒しながら服を脱ぎ始めた。
ドロシーも自分の服を脱ぎ、魔法でお湯を出して体を洗い始めた。
「脱いだけど、私もう魔力ないんですけど」
「大丈夫よ。修行を見る間は私が魔法でお湯出してあげるから」
「それって、これから毎日私の裸を見るって宣言ですか?」
「修行に集中するための善意よ!」
ジト目で聞いたレティシアに少し大きな声でドロシーが否定した。
「本当ですか?」
「本当よ!」
「……」
「はあ、いいからこっちに来なさい。シャワー浴びれないでしょ」
「……」
レティシアはドロシーを警戒した顔でゆっくり近づいた。
ドロシーは呆れたようにため息をついて、レティシアにシャワーを掛けた。
レティシアはシャワーを掛けられると、簡単に体を手で洗い始めた。
「それにしても、レティシア良い体してるわね。肌は透き通るように白くてきれいだし、髪もサラサラで絹のように滑らかな銀髪だし、胸も大きすぎず小さすぎないで違和感ないくらいのちょうどいい大きさで形もいいし、お腹周りもしっかりと引き締まていてスタイルもいいし、足もすらっと伸びていてとてもきれい」
「……」
レティシアはドロシーが長々と語る間、少しずつ警戒を強めてゆっくりと離れて行った。
「なんで、そんなに離れてるの?」
「何というか、身の危険を感じたから」
レティシアは手で体を隠しドロシーを警戒する目で見た。
「何もしないって」
「明日は一人でシャワー浴びるので、ブラックカーテンを教えてください」
「何もしないってば!」
レティシアの言葉にドロシーは大きな声で否定した。
「はあ、私よりもドロシーさんの方がスタイルいいと思うんですが、胸は大きいし形も整っていてきれいだし、私と同じようにお腹周りも引き締まってるじゃないですか」
「それって、髪と肌は自分の方が上って言いたいの?」
「違います。髪もきれいな赤色ですし、肌もきれいですよ」
「ありがとう。けど、胸は大きすぎると邪魔なだけよ」
「自慢ですか?」
レティシアはジト目でドロシーを見て返した。
「違うわよ!というか、レティシアも大きい方には入るからね。そうじゃなくて、大きいと動くのに重くて邪魔になるし、余計な体力使うから冒険者の女性にとってはレティシアくらいの大きいけど、そんなに邪魔にならないくらいの大きさが理想なのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。けど、男はないよりあった方がいいとか言って大きいのが好きなのよ。女も大きいのが羨ましいから大きくなりたいけど、動くのに邪魔になると小さい方がって言うのよ」
「へー」
ドロシーは愚痴のように話し始めた。
「だから、レティシアくらいが本当にちょうどいいのよ。他の女冒険者に今みたいに自慢とか言ったら怒られるわよ」
「今後は気を付けます」
「よろしい。それじゃあ、服も洗いましょうか」
「魔法でですか?」
「ええ、こうやってお湯の中に流れを作って中で回すの。ある程度回すと取り出して絞るでまた回す、これを繰り返して最後に熱魔法で乾かせば終わり」
ドロシーは目の前で二人の服を実際に洗って見せた。
レティシアはそれを興味深そうに見ていると、レティシアに乾いた服を返された。
「ありがとうございます」
「弟子の面倒を見るのも師匠の務めよ」
レティシアはドロシーに頭を下げて御礼を言うと、乾かしてもらった服を着始めた。
ドロシーもレティシアが服を着始めたのを見て、同じように服を着始めた。
二人は服を着るとブラックカーテンから出て、テントの焚火まで戻ると少ししてユウヤと龍壱の二人も帰って来た。
四人そろうと夕食をドロシーが異空間収納から取り出して食べ、テントに入って眠りについた。
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