第9話 修行開始

 ユウヤが家に帰って来て扉を開け、奥の部屋に顔を出した。


「母さん。俺、ガウスさんに剣術の修行をしてもらうことになった!」


 奥の部屋に着くなり、大きな声で嬉しそうにアイリに言った。

 アイリは少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの優しい微笑みに戻ってユウヤに問いかけた。


「ガウスのところに斧を貰いに行ったんじゃなかったの?」

「そうだけど、えっと、いろいろあって剣術教えてくれるって!」

「よかったわね。けど、困ったわね」

「どうかしたの?」

「どうかしたんですか?」


 アイリはユウヤと話した後、顎に手を当てて考え始めた。


「今のユウヤだとまともに剣を振れないだろうから、早く魔術制御教えないといけないかなって」

「え?俺、剣振れないの?」

「手加減すれば振れると思うわよ。けど、本気では出来ないでしょうね」

「そうなの……」


 アイリの言葉にユウヤは暗い顔をして俯いた。


「大丈夫よ。明日にでも魔術制御を教えてあげるから、制御が出来る間は力を抑えられるわ」

「本当!?」

「ええ。けど、練習を頑張らないと、長時間制御出来ないわよ」

「分かった!俺、頑張る」

「じゃあ、明日からしばらくは制御の練習をしながら家事をしてね」

「分かった!」


 アイリの言葉にユウヤは元気よく返事をした。

 そんなユウヤを見て軽く頷いた後、黙って二人の話を聞いていたレティシアに視線を移して声をかけた。


「レティシアも明日から制御の練習ね」

「は、はい」


 突然、アイリに声をかけられて驚きながらレティシアは返事を返した。


「それと、レティシアもユウヤと一緒に剣術の修行に行きなさいね」

「……え?」


 アイリが何を言っているのか分からなかったレティシアは少しの間固まり、間の抜けた声を出した。


「魔法は私が教えてあげるけど、近接戦闘は教えてあげられないからね」

「私、別に近接戦闘は教えてくれなくてもいいんだけど……」

「だめよ。一流の魔導士は近接戦闘も長けてないとなれないわよ。接近されたら魔法を撃つまでの間、敵から身を護るすべがいるんだから」

「……分かりました」

「じゃあ、二人が早く剣術の修行を始められるように、私も頑張って魔力制御教えないとね」


 アイリは嬉しそうな声で二人に言った。

 その後、ユウヤが夕食を作りレティシアが皿洗いをして三人ともいつもより早めに眠りについた。


 次の日、朝を着てユウヤとレティシアが服を着替えた後、アイリのベッド近くの椅子に座った。


「じゃあ、まずはレティシアからね」

「はい」

「レティシアは魔法が使えるから魔力の流れはある程度分かるわよね」

「はい」

「外に出ず体の中を巡り続けている魔力は分かる?」

「……はい、わかります」


 アイリの問いにレティシアは目を閉じて少しの間集中した後、返事をした。


「なら、体の外に出て行っている魔力を出さないようにして、体の中を巡っている魔力と同じように巡らせるよう意識して動かして」

「はい」


 レティシアは椅子から立ち上がり目を閉じ深呼吸をして集中し、アイリに言われたことを実践し始めた。

 アイリはレティシアが身体強化を行えていることを確認すると「そのまま続けて」と言って、ユウヤの方を向いた。


「次はユウヤね」

「はい」

「ユウヤは、魔力の流れは分かる?無意識に魔力制御してるはずだから、感覚的に分かるはずよ」

「……多分、この体の中を流れてる力のことだよね」

「ええ、それであってるわ」

「これをどうするの?」

「その力が胸のこの辺りに多く密集してるのは分かる?」


 アイリは胸の間のちょうど心臓の上あたり手で触りながらユウヤに問いかけた。

 ユウヤもアイリと同じように心臓のあたりを触って目を閉じて集中し始めた。


「……うん、ものすごく密集して流れてる」

「そこが心臓ね。体で一番魔力が密集してる場所よ」

「それは、分かったけど、どうすればいいの?」

「体を巡ってる力の一部を心臓の中だけで巡らせるの。そうすれば、体を巡る魔力が減って身体強化が落ちるわ」

「やってみる」


 アイリの言葉を聞きユウヤも椅子から立ち上がり、レティシアと同じように集中して実践し始めた。

 アイリは魔力制御をしている二人の様子を見守り、乱れると整えるように声をかけた。

 十分たった辺りでレティシアが苦しそうな顔になり、目を開けて椅子に座り息が乱れていた。


「お疲れ様。初めてにしては長く制御出来ていたわ」

「あ、りが、とう、ございます」


 アイリの言葉を聞いてレティシアは途切れ途切れながらも返事をした。

 レティシアはユウヤが魔力制御している間に呼吸を整え始めた。

 レティシアが限界を迎えて少し経つと、ユウヤも目を開けて椅子に座った。


「お疲れ様。ユウヤも初めてにしては長持ちしたわよ」

「あり、が、とう。けど、これ、きつい」


 ユウヤもアイリにレティシアと同じように途切れ途切れに返事をした。


「まだ、練習を始めたばかりだからしょうがないわ。いずれはこれを維持した状態で生活できるようにならないと」

「そ、そんな……」


 アイリの微笑みながらの言葉にユウヤもレティシアも顔を歪めた。

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