第7話 レティシアの才能

 レティシアがユウヤの家で生活を初めて数日が経った。

 レティシアの傷も完全に治り、料理などの家事を手伝い始めていた。


「レティシア、洗い物お願いね」

「分かった」


 ユウヤは流しに食器を運びレティシアの近くに置いた。

 レティシアが皿を洗おうと蛇口をひねると、少しの水が流れてすぐに止まった。


「あれ?」

「どうかした?」


 首を傾げているレティシアにユウヤが後ろから問いかけてきた。


「蛇口をひねっても水が出なくなったの」

「ああ、水瓶に水が無くなったのかも。ちょっと待ってて」


 ユウヤは部屋の隅に置いてある水瓶の中を確認した。


「やっぱり、水無くなってるね。ちょっと水取って来るよ」

「水ないなら、私が出そうか?」

「え?出すってどうやって?」

「魔法でだけど……」

「魔法使えるの!?」

「まあ、初級魔法は使えるよ」


 魔法が使えることに驚いているユウヤにレティシアは苦笑いしながら答えた。


「じゃあ、お願いしていい」

「ええ、大丈夫よ」


 レティシアはからの水瓶に手をかざして「水よ」と小さい声で呟いた。

 その直後水瓶の少し上で水が湧き、水瓶に落ち始めた。

 水瓶がいっぱいになると、水が湧かなくなった。


「ふう」


 レティシアはかざしていた手をおろして、少し深く息を吐いた。

 ユウヤは水で満たされた水瓶を見て、レティシアの手を握りはしゃぎだした。


「すごい!すごい!レティシア、すごいよ!」

「ゆ、ユウヤ、ちょっと落ち着いて」


 はしゃぎ続けるユウヤにレティシアが困っていると、奥の部屋からアイリの声が聞こえてきた。


「ユウヤ、少し落ち着きなさい」

「あ、ごめん。レティシア」

「別に、大丈夫よ」


 アイリの声にすこし落ち着いたユウヤはレティシアの手を放して謝った。


「じゃあ、洗い物済ませるね」

「分かった。後で魔法について教えてね」


 レティシアはユウヤに「わかった」と返して、洗い物に取り掛かった。

 ユウヤはアイリのベッドの隣に座り、アイリと話し始めた。


「母さん、魔法ってどうやって使うの?」

「魔法は、体の外に出た魔力を使って行うの」

「どうやって水にしたりするの?」

「やり方は二つあるわ。一つは、魔力を空気中にいる精霊にあげて、起こしたい現象を起こしてもらうことよ」

「精霊?」


 アイリの説明に首を傾げて問いかけたユウヤに、アイリはユウヤの頭を撫でながら答えた。


「精霊って言うのわね。人の目では見えない生き物で、特定の現象を起こすことに特化した存在よ。

 例えば、さっきレティシアがやったように水を出す精霊みたいなのがいるわ」

「水以外を出す精霊もいるの?」

「ええ、いるわ。精霊は出したものを操ることも出来るのよ」

「へー。じゃあ、もう一つの方法は?」


 ユウヤの問いにアイリは近くにあった紙とペンを取り、何かを書き始めた。


「もう一つは、さっきレティシアがやっていたみたいに精霊を介さず、魔法陣や言霊で魔力を出したいものに変化させるの」


 アイリは説明し終わると、「こんな感じ」と言いながらユウヤに紙に書いた魔法陣を見せた。


「この円の中にいろいろな文字とかが書いてあるのが、魔法陣?」

「そう。ちなみに、優れた魔導士は魔法陣も言霊も無しに魔法を使うことも出来るわ」

「へー。ねえねえ、俺も魔法使えるかな?」


 ユウヤの言葉に、アイリは少し悲しそうな顔になったが、優しい顔をしてユウヤの頭を撫でながら答えた。


「ユウヤは、魔法を使えないの」

「え!?」

「ユウヤは、魔力を外に排出することがほとんど出来ないの」

「どうして?」


 ユウヤは少し泣きそうな顔でアイリに問いかけた。


「ユウヤは魔力を排出する器官がとても少ないの」

「魔力を体の外に出せないと、魔法使えないの?」

「使えないわ」

「そんな……」


 今にも泣きだしそうな顔で俯いたユウヤの頭を抱き寄せて優しく撫で始めた。


「ユウヤは最近まで魔力の生成量が排出量より多かったから、体内に大量の魔力が溜まっているわ」

「けど、外に出せないと魔法は使えないんでしょ」

「ええ、魔法は使えないわ。けど、体内に大量の魔力が巡っているから常に身体能力強化された状態なの」

「身体、能力、強化?」

「そう。身体強化とも言うけど、正確には身体能力強化ね」

「身体強化されてるとどうなるの?」

「他の人より、力が強く頑丈で怪我もしにくくなるわ」


 アイリの説明にユウヤはまた俯いた。


「力が強くてもあんまり嬉しくない。すこし力加減を失敗したら簡単にもの壊れちゃうし」


 俯きながら理由を話すユウヤにアイリは優しく微笑んで頭を撫でた。


「大丈夫よ。魔力の制御を練習すれば魔力を排出しなくても身体強化を弱められるわ」

「制御出来れば、力加減しなくてもよくなるの?」

「ええ、使いたい時だけ身体強化できるようになるわ」

「本当!なら、魔力の制御頑張る」

「魔力制御は私が教えてあげるわね」

「ありがとう、お母さん」


 アイリの言葉に喜びユウヤが抱き着くと、レティシアが後ろから声をかけてきた。


「洗い物終わったけど……何やってるの?」


 レティシアの声にユウヤがアイリから離れて振り向き返事をした。


「魔法についての話してたの」

「そうなんだ。アイリさんは魔法について詳しいんですか?」

「ええ、私も昔は結構すごい魔導士だったのよ」

「そうなんですか!?」


 レティシアはユウヤの隣に座り、アイリの言葉に驚いた顔をした。


「ええ、レティシアも何か聞きたいことある?」

「聞きたいことっていうより、魔法を教えて欲しいです」

「いいけど、どうして?」


 レティシアの言葉にアイリは不思議そうに首を傾げた。


「今はユウヤや村の人にお世話になってますけど、いつかは自立しないといけないと思うので、冒険者になってやっていけるように魔法を教えて欲しいんです」

「……分かったわ。けど、ここはもうあなたの家なんだからいつでも帰って来ていいのよ」

「ありがとうございます」


 アイリの優しい微笑みにレティシアは深く頭を下げた。


「じゃあ、ちょっと魔力の排出量や魔力の総量を見たいから手を出してくれる」

「はい」


 アイリはレティシア出された手を握った。

 手を握っているアイリの手が少し光ると、すぐに光は収まった。


「……すごいわね。私より魔力の最大排出量上なんじゃ、それに子供の時の私より魔力量も多いわ」

「それってすごいの?」

「すごいんですか?」


 アイリの言葉がよくわからないユウヤ達は首を傾げて問いかけた。


「ええ、最大排出量が多いほど強力な魔法が使えるようになるわ。けど、まだ排出量に見合った魔力が無いからそんなに強い魔法は使えないけどね」

「じゃあ、魔力をこれから増やしていけばいいんですか?」

「ええ、そのためには魔力制御を練習すればいいわ」

「どうしてですか?」

「魔力量は無意識に制御出来る魔力量が多いほど、魔力生成量が増えるの」


 レティシアは俯いて少し考えてアイリに質問した。


「どうしたら無意識に制御出来る魔力を増やせますか?」

「簡単よ。魔力が体の外に出さないように体内で循環させる身体強化を長時間すれば少しずつ上がっていくわ」

「身体強化のやり方分からないです」

「安心して、私が他の魔法と一緒に教えてあげるから」

「ありがとうございます」


 不安そうに俯いたレティシアの頭をアイリは撫でながら励ました。

 頭を撫でられているレティシアの横でユウヤは首を傾げてアイリに問いかけた。


「身体強化をすれば魔力生成量が増えるってことは、常に身体強化されてる俺はどうなるの?」

「ユウヤは生成量は相当多いだろうけど、体がこれ以上魔力を作らないように生成器官をほとんど働かせていないのよ」

「そうなんだ」


 ユウヤはアイリの説明に納得したのか立ち上がり、部屋を出て行こうとした。


「ユウヤ、どこ行くの?」

「ガウスさんのところに斧を貰いに行くの。そろそろ薪を集めておかないといけないから」

「そう。いってらっしゃい」

「いってらっしゃい」

「行ってきます」


 アイリとレティシアに笑顔で返したユウヤは家を出て行った。

 ユウヤが家を出たことを確認すると、レティシアがアイリに問いかけた。


「あの、ユウヤは魔力を排出出来ないんですよね」

「ええ、さっきの話聞いてたのね」

「少し聞こえちゃって……」

「気にしなくても大丈夫よ。ユウヤはいい子だから、魔法が使えるからってレティシアのことを嫌いになったりはしないわ」

「そ、そんなことは気にしてません!」


 レティシアは恥ずかしそうに顔を赤くして少し大きな声で否定した。


「隠さなくてもいいのよ。あの子に彼女が出来ると私も嬉しいから」

「どうして私がユウヤのことが好きだと?」


 恥ずかしそうに顔を赤くしたまま聞くレティシアにアイリは先ほどの優しい顔とは違い悪戯っぽく笑って返した。


「私は好きとはいってないわよ」

「あ!?」


 アイリの言葉に気づいたレティシアはさらに顔を赤くして俯いた。


「ふふふ、ごめんなさい。まあ、ユウヤに嫌われることはないから大丈夫よ」

「分かりました」


 レティシアは口元を手で隠して笑うアイリをジト目で見ながら納得したように答えた。


「そういえば、ユウヤの中にどれくらいの魔力があるんですか?」


 レティシアの何気ない質問にアイリは少しくらい顔をして答えた。


「最高位魔法である極大魔法数十発分の魔力よ」

「極大魔法って魔導士百人単位で行う魔法ですよ!」

「だから、お願いがあるの、レティシア」

「お願いですか」

「もし、もし、ユウヤの魔力が暴走しそうになったら、あなたが抑えてあげて」

「そんな、私には、そんな力……」

「大丈夫。今は無くても必ず身につくから、あなたは私以上に魔法の才能がある。だからお願いユウヤを護って」


 レティシアの手を握り頭を下げてお願いしてくるアイリに困った顔で返した。


「わかりました。私に出来る限りのことはします」

「ありがとう」


 レティシアの言葉にアイリは明るい笑顔で御礼を言った。

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