第5話 少女の名前
魔物が無事討伐され、夜が明けた。
ユウヤはアイリと自分の朝食を作って食べ終わると、食器を片付けた。
「じゃあ、母さん。少し出かけて来るね」
「あら?どこに行くのかしら?」
「イリス先生の病院に行ってくる。昨日助けた女の子の様子が気になるから」
「あら、ユウヤも女の子に興味を持つ年頃になったのね」
「何言ってるの、母さん」
「何でもないわ。いっていらっしゃい」
アイリはユウヤの言葉に嬉しそうに言った。
ユウヤはアイリを呆れた顔で見て家を出た。
ユウヤは軽く走ってイリスの病院に向かった。
病院に着くとユウヤは扉を叩いてイリスを呼ぶと、すぐにイリスが扉を開けて出てきた。
「あら、おはよう、ユウヤ。結構早く来たのね」
「おはようございます、イリス先生。あの子がどうなったのか気になって」
「体は大丈夫よ。けど、家族を殺されるところを見たせいで精神的には大丈夫じゃなさそう」
「俺、あって大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫よ」
ユウヤはイリスに奥の部屋に案内されて移動した。
部屋に入ると、ベッドの上で布団を頭まで被って少女が泣いていた。
「昨日、あなたを助けてくれた子が来たわよ」
イリスが声をかけると、山のように盛り上がった布団がビックと反応し、布団の端から顔を出した。
少女の顔は布団の隙間からでも分かるほど整っており、幼い可愛さと綺麗な美しさが共存した美少女だ。
ユウヤは、そんな美少女が目を真っ赤にして今も涙を流している姿にどう反応していいのか分からずに困った顔をした。
「えっと、おはよう」
「あり、が、とう」
「え!?」
「助けて、くれて、ありが、とう」
「どういたしまして」
ユウヤは少女の涙ぐんだかすれるような小さな声のお礼を聞いて、嬉しくなり元気に返事をした。
「けど、私は、ほっておいて、よかったのに」
「え!?」
「私は、死んだ方が、良かったんだから」
「な、なんで!?」
先ほどと同じ涙ぐんだかすれるような小さな声で告げられた言葉にユウヤは驚いた声を上げた。
「私を庇って、お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、みんな殺されちゃった」
「だからってお前まで死ぬ必要はないだろ!」
「私がみんなを殺したの、私が死ねば良かったのよ!」
「ふざけるな!」
少女のいいように怒ったユウヤは怒鳴り付け、少女が被っている布団をはぎ取った。
少女は突然布団を取られて慌てたが、ユウヤに両肩を掴まれて動きを封じられた。
「お前の家族は、お前を庇ったんだろ!」
「だから、そう言ってるじゃない!」
「なら、お前が死にたいなんて言うなよ!」
「私なんて死んだっていいじゃない!あんたには関係ないでしょ!」
「ああ、関係ないよ!お前を助けたから、生きろなんて言う気はないよ!けどな!」
ユウヤは一度言葉をきり大きく息を吸って言葉を続けた。
「お前の家族はお前に生きて欲しかったから、お前を庇ったんだろ!」
「!?」
「それに、お前だって死にたくなかったから、魔物から必死になって逃げたんだろ!」
「なんで!?あんたにそんなことが分かるのよ!?」
「俺とあった時疲れ果てて気絶したし、体中に小枝とかでついた小さい傷がたくさんあったからな」
「!?」
「家族が死んで悲しいのは分かる。だから、今は泣きたいだけ泣けばいいさ」
「あんたに何が分かるのよ!家族を亡くしたことなんてないくせに!」
「確かに、悪かった」
ユウヤの言葉に少女は涙を流しながら、ユウヤの服の襟をつかんで怒鳴った。
少女の怒鳴りにユウヤは冷静になり、謝った。
ユウヤが突然冷静になったことで、少女も少し冷静になったのかユウヤの襟から手を放して顔を逸らした。
「それに私一人じゃ、とても生きていけないし」
「なんでだ?」
「だって、私はまだ働けないから、お金稼げない」
「お金稼がなくても生きていけるだろ?」
「え!?」
ユウヤと少女が首を傾げていると、イリスがため息をついて話しに入って来た。
「あのね、ユウヤ。この村と外の町は違うのよ」
「どう違うの?」
「外の町では、仕事をしてお金を稼いで食材を買うの。この村みたいに食材を無償で分けてはくれないの」
「なるほど、外の町の人は冷たいんだね」
「ま、まあ、それが社会のルールだからね。それにこの町でも何もしないでいつも遊んでる人には誰も食材を渡さないでしょ」
「え!?そういえば、そうだね」
「ユウヤみたいにいろいろ手伝ったりしてる人にはあげるけど、何もしない人にあげても何の得にもならないからね」
「なるほど」
「けど、大きな町では何もしてない人と仕事をしている人の違いが分からないから、お金と物を交換してるのよ」
「なるほど、お金は仕事をしている証ってことなんだ」
「そういうこと。だから、彼女は生きていけないって言ってるの」
「そうなんだ」
イリスの説明に納得したユウヤは少女の方を向いた。
「じゃあ、俺の家に来ればいいよ」
「え!?」
「俺の家に来れば生きていけないことはないだろ」
「けど、迷惑じゃない?」
「大丈夫だ。怪我が治ったら家事とか手伝ってもらうから」
「ちゃんと働けってことね」
少女は目元の涙を拭い、ユウヤに手を伸ばした。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
ユウヤは差し出された少女の手を握り握手を交わした。
「そういえば、名乗ってなかったな。俺はユウヤだ」
ユウヤが名乗ると少女はぎこちなくではあるが、しっかりと微笑んで名乗った。
「私の名前はレティシア」
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