第4話 魔物の討伐
ユウヤは返り血で汚れている少女をイリスの病院に連れって来た。
「イリス先生、開けてください」
イリスの病院の扉を強く叩きながら、大きな声で呼んで少しするとイリスが出てきた。
「どうしたの、ユウヤ?」
「森で熊の魔物に追いかけられていた少女を連れて来たんです」
「怪我は?」
「ぱっと見た感じはしていないです」
「分かったわ。奥の部屋のベッドに連れて行って」
「分かりました」
ユウヤはイリスに言われた通りに少女を奥の部屋のベッドに連れて行き寝かせた。
イリスはベッドに寝かされた少女の体に大きな怪我が無いか確かめ、無いことを確認すると、小さなすり傷などを手当てし始めた。
「ユウヤはもう帰りなさい」
「け、けど、その子を連れてきたの俺だし、治療が終わるまでは」
「大丈夫よ。それに、魔物が出たって聞いたらアイリが討伐に出て行きそうだからね」
「さ、流石に、母さんでも病人なんだし、討伐に行かないんじゃ」
「熊の魔物となると、大物だからね。町の人に被害が出る可能性があるから、アイリは跳んで行きかねないのよ」
「自分の方が危ないのに……」
「まあ、そういう訳だからお願いね」
「分かりました。また、明日様子を見に来ます」
「分かったわ」
ユウヤはイリスに頭を下げた後、家に向かって歩いて帰った。
ユウヤが家に着くと、イリスが言った通りアイリはベッドから立ち上がりアイリの身長と同じくらいある杖で体を支えて立っていた。
「母さん、何してるの!?」
ユウヤは立っているアイリを見て駆け寄り、アイリが倒れないように支えた。
「熊の魔物を討伐しに行くのよ」
「無茶だって、母さんは病人なんだよ」
「熊の魔物くらいなら一撃で終わるから大丈夫よ」
「そういう問題じゃないでしょ!母さんは病気なんだよ!」
「町の人が死ぬかもしれなのよ。行かないわけにはいかないでしょ」
「だから、母さんは病人なんだよ。熊と戦ったら死んでしまうかもしれないんだよ」
「熊くらいなら大丈夫だって」
「母さんが死んだり倒れたら俺が悲しむよ。それでも行くの?」
ユウヤが涙目で上目遣いをしてアイリを見ると、アイリは先ほどまで必死に行こうとしていたが、石のように固まって動かなくなった。
「わ、わかったわ。行かないからそんな目で見ないで!」
「ありがとう」
(母さんを止めるには、やっぱりこれが一番だな)
ユウヤはアイリが止まったことを確認して先ほどの涙目が嘘のように明るい笑顔を見せた。
アイリは困ったようなため息をついて、ユウヤにベッドまで支えられながら移動した。
ユウヤが家でアイリを止めている頃、門の前では町の兵士や戦える人達が集まっていた。
「大分集まったな。熊の魔物が今どこにいるか分かっているのか?」
「ああ、数人が様子見に向かった。報告では右前足を怪我していて、ゆっくりではあるが村に向かっているらしい」
「どうして村に向かってるんだ?」
「ユウヤが森で助けた少女のにおいをたどっているんだろう」
「なるほどな。まあ、人助けの結果ならしょうがないか」
「魔物の進路に罠は仕掛けたか?」
「ああ、動きがのろいから簡単に仕掛けられた」
「それじゃあ、戦える奴も集まりきったころだし、行くか」
「ちょっと待ってくれ!」
兵士の声でみんなが移動しようとした時、村の中からゆっくり走って来る人影が見えた。
「あれは……ガウスさんか!?」
「なんで、ガウスさんが!?」
人影の正体がわかってみんなが驚いた声を上げ始めた。
ガウスと呼ばれた老人は、かなり鍛えているのか体格が良い。そして背中にとても大きな鉄の塊のような大剣を背負っていた。
「はあ、はあ、この剣やっぱり重いな」
「ガウスさん、引退したんじゃないんですか?」
「熊の魔物と聞いてな。この村では討伐が厳しいと考えて来たんじゃ」
「で、その剣は?」
「最近作ってな。使えるか試そうと持って来たんじゃ」
「あ、そうなんですね」
ガウスの言葉にユウヤは呆れて苦笑しながら後ずさった。
「ガウスさん、腕はいいんだが、たまに思い付きで扱えない武器作るのがな~」
「あれさえなければ凄腕の鍛冶師なんだけどな」
兵士たちがガウスに聞こえないように小さな声でガウスについて話した。
「魔物が罠の近くに来るらしいから、そろそろ出発しよう」
「了解だ」
報告に戻って来た兵士の話を聞いて、門の前に集まっていた兵士たちが移動を始めた。
兵士たちはしばらく歩くと森の茂みに隠れるように移動し魔物の偵察をしていた兵士たちと合流した。
偵察部隊と合流して少し魔物が移動すると、魔物は兵士たちが仕掛けた落とし穴に落ちた。
「落ちたぞ!穴を網で塞げ!」
兵士たちは穴を大量に大きな石を結び付けた網で塞いだ。
魔物は穴から這い出てくると、網に絡まってまともに動きが取れなくなった。
「今だ!網の隙間から槍で攻撃しろ!」
リーダーらしき男が指示を出すと、兵士たちは槍を持って突撃して魔物を刺し始めた。
槍は魔物の硬い毛皮にはじかれてほとんどが刺さらなかったが、毛皮の柔らかい場所を刺されて苦しそうに叫び声を上げ、二本足で立ち体に刺さっている槍を振りはらった。
槍を払った後、怪我をした右前足以外の三本足で立った。
魔物体制が低くなったタイミングを狙ってガウスが大剣を振りかぶって全力で走って近づいた。
ガウスは魔物の首目掛けて大剣を振り下ろした。
大剣の重さでかなりの威力の斬撃は一太刀で魔物の首を斬り落とした。
振り下ろされた大剣はあまりの威力に勢い余って、刀身の七割近くが地面にめり込んだ。
「ふー、うまくいったな」
「おいおい、あの硬い毛皮を一刀両断かよ」
「まあの。しかし、この大剣は重くて身体能力強化をしてもほとんど振り回せんわい」
「とういうか、この大剣抜いて持って帰るのか?」
「……」
ガウスは地面に刺さっている大剣を見てため息をついた。
その後、ガウスは大剣を抜き兵士たちに手伝ってもらい村まで持って帰った。
こうして熊の魔物を一人の死者も出さずに討伐した。
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