第2話 母は強し
ユウヤの魔力制御を初めた日からアイリは、空腹などで泣くたびに魔力制御を行い、寝ている時突然魔力の制御が出来なくなり泣くユウヤの魔力制御をしていた。
そんな生活を一月送ったアイリは、寝不足で雪のように白く透き通った肌の目の下に大きな隈ができ、綺麗な銀髪の髪は整える余裕がないためぼさぼさになっていた。
アイリの努力もあり、ユウヤは空腹など何らかの理由が無ければ、魔力を制御できるようになってきていた。しかし、魔力の量はアイリが魔力制御を始めた時より遥かに多くなっているため、魔力制御するアイリの負担は日に日に増えていった。
「それにしても、ユウヤの成長速度は予想以上に早いな」
「ええ、流石は私の息子ね。この調子で魔力制御出来るようになってくれたら、半年後には私が制御する必要はほとんどないわね」
「後半年ね……」
イリスは暗い顔で小さく呟いた。
「私の体のことを気にしてるの?」
「ああ、君はユウヤのことだけじゃなく、自分の体のことも少しは考えなさい」
「私のことは私が一番よく分かっているわ」
「君がユウヤのために無理して、君まで亡くなってしまったら悲しむのはユウヤなんだぞ」
「……」
イリスの言葉にアイリは何も言わずに優しい顔でユウヤの顔を見ながら頭を撫でた。
「大丈夫よ。この調子で成長してくれたら、ユウヤが成人するまでなら生きられるわ」
「!?馬鹿なことを言うな!」
アイリの言葉にイリスが怒鳴り声をあげると、ユウヤが驚いたのか泣き出してしまった。
アイリは慌てて泣き出して魔力の制御が出来なくなったユウヤを抱きかかえて魔力を制御し始めた。
「あ、わ、悪い」
「気にしないで、私のことを思って言ってくれてるのは分かっているから」
泣き出したユウヤにイリスは頭を下げてアイリに謝るが、アイリはユウヤを慰めながら優しい顔でイリスに微笑んだ。
「お前のためだけじゃない。ユウヤのためでもあるんだぞ」
「そうね。ユウヤが落ち着いたら私も頑張って体治さないとね」
「そうだね。私も君の体を治すために出来る限り協力する」
「ありがとう」
二人が話している間にユウヤは大分落ち着き再び眠りについた。
半年の月日が流れ、ユウヤはアイリが魔力制御をしなくてもいいくらいに魔力を制御できるようになっていた。
半年前は空腹などで泣くと制御が乱れていたが、現在は泣いていても制御が乱れることがほとんどなくなった。
ユウヤが成長し魔力制御は出来るようになったが、未だにユウヤの魔力生成量が排出量を上回っているため、魔力が増え続けている。
そしてユウヤは常に魔力を制御し、膨大な魔力を体中に巡らせているため、常時身体能力強化を行っているのと同じ状態にある。
その為、ユウヤは力の制御が上手く出来ず、身の周りの物を頻繁に壊していた。
「あらあら、また壊しちゃったのね」
「これで何個目かしらね」
「いいじゃない。体質上どうしても力が強いんだから」
「私は構わないが、どうせ君のお金で買っているものだからね」
「貯金はたくさんあるから大丈夫よ」
「流石は元世界最強の大魔導師様ですね」
「……そんないい方しなくても」
イリスのからかうような言い方に、アイリはジト目を向けて返した。
「別にからかっただけだろ」
「はあ。けど、力の制御も出来るように育てないといけないわね」
「まあ、力の制御は成長につれて身につくさ」
「そういうもの?」
「そういうものよ」
アイリはイリスと一緒にベッドの柵を寝ぼけて壊したユウヤの顔を微笑ましく眺めていた。
さらに数年経ち、ユウヤは六歳になった。
ユウヤは数年の間に魔力と力の制御が成長し、魔力制御と力加減は感情が大きく揺さぶられない限り乱れることも失敗することも無くなった。
「母さん、食材買ってきたよ」
「おかえりなさい、ユウヤ」
「ただいま」
ユウヤは大きい袋からいろんな食材を取り出し、冷蔵庫の中に入れていった。
冷蔵庫は魔力が結晶化した魔石を使い冷却魔法で食材を常に冷やしている。
「ユウヤは力持ちね」
「まあね。それより、母さん何食べたい?」
「ユウヤの好きな物を作っていいわよ」
「何を食べたいか聞いたのに」
ユウヤはベッドに横になって上半身だけ起こしているアイリの答えに不満そうな顔をしたが、厨房に移動して料理を始めた。
アイリは数年前ユウヤの魔力を制御していた時とは違い目の下に隈はなく、髪も絹のように美しく整えられていた。
ユウヤはアイリと同じ銀髪碧眼で半袖のTシャツに長ズボンの服を着て、ユウヤはちょっとした高さの踏み台の上に乗り調理をしている。
少し時間が経つとユウヤは作った料理を器に盛りお盆に乗せてアイリが横になっているベッドまで料理を運び、ベッドの隣に置いてある机にお盆を置いた。
「ご飯できたよ、母さん」
「ありがとう」
ユウヤはアイリのベッドの上にお盆を置いて食べられるように、スプーンを渡した。
アイリにスプーンを渡すと自分も机に体を向けて手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
ユウヤとアイリは特に何も話さずにご飯をゆっくりと食べ、食べ終わるとユウヤが食器の乗ったお盆を持って流し台に向かった。
「ユウヤ、昼からはどこか行くの?」
「村の外に薪を拾いに行くつもり」
「そう。森には熊や魔物がいるから気を付けてね」
「分かってる。いざとなったら全力で逃げるから大丈夫」
「ユウヤの足の速さなら、魔物に追いつかれることも無いから安心ね」
優しく微笑みながら冗談のように言うアイリにユウヤは笑って返し、食器を洗い終わると薪拾いに行く準備をした。
準備が終わるとアイリの寝ているベッドがある部屋に顔を出した。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
アイリは薪拾いに行くユウヤを手を振って見送った。
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