第2話 どうしてこうなった

 どうしてこうなった。


 状況を整理しよう。冷静にそう思い直し、どうしてこんな漫画の中にしか出てこないような状態に私は陥っているのか記憶をたどる。


 さっきまで私は普通の大通りを高校の入学式に向かうために普通に歩いていたはずだ。なんの問題もない。

 いや、多少ウキウキしてしまっていた感はある。というか私はスキップしてたな?

 ま、まあ憧れの高校にやっとのことで合格して初めて登校するんだから世の新JKもみんな登校中にスキップぐらいする。そうに違いない。そうだよね?

 とにかく、そうやってスキップしてたら肩から下げていたカバンがずり落ち、スキップの勢いそのままにあらぬ方向へカバンを蹴り飛ばしてしまった。そして運悪くカバンの口が少し開いていたから中身がいろいろスプラッシュしてしまった。なんで私はちゃんと閉めてなかったの…

 さらに運の悪いことにカバンの中身のカードホルダーの口が、勢いよく落ちた衝撃で壊れ、中のカードがまだ冷たい春風に何枚かさらわれてしまった。

 ワタシ、ハル、キライ。

 そのあと気と肩を落としながらもカバンを拾い、かなり広範囲に散らばってしまった私物を拾っていく。

 良し、全部拾ったハズ!

 近くの家の生垣に引っかかっていた最後のカードを回収しカードの枚数を数える。

 あれ?一枚足りなくない?カードが20枚しかない。

 マズい、あれはお兄ちゃんにもらった大切なカードだ。あれだけは無くすわけにはいかない。不幸中の幸いにも時間はまだある。

 そうしてまた私はさっきカバンを蹴り飛ばした場所周辺を探し始めた。


 あった!さっきの場所からこんなところまで飛んでいったの…

 道のどこを探しても一向に見つからないので、どこかの周りの家の敷地内に飛んで行ったのだと当りをつけて探してみたら案の定だ。

 こじんまりとしたオレンジの屋根の家の、コンクリート塀に囲まれた庭の奥側に大変見覚えのあるカードが一枚着地している。

 セーフ!割と時間かかったけど見つかったから万事セーフ!

 胸をなでおろしながら、早速オレンジの家のインターフォンを押す。

 ピンポーン………………………

 ん?

 ピンポーン…………ピンポン、ピンポン、ピンポンピンポーン

 あ、これヤバいやつだ。

 さすがに不法侵入して見つかって、入学早々補導されてヤンキーとして名前を売っていくような気はない。かといって目の前にある大事なものをみすみすサヨウナラする気にもなれない。

 悩みながらどうにかカードを回収できないかと庭が面している暗い路地裏へと入っていく。

 やった!穴だ!でもこのサイズいける?

 端のほうのコンクリート塀が少し崩れていて穴ができていた。サイズは私一人ギリギリ通りそうなサイズだ。しかもちょうど穴から目的のカードが見える。


 う~~~~ん…………ダメだなぁ……

 必死に穴からカードに向かって手を伸ばすが絶妙に届かない。

 しかたないか、よいしょ……っと……

 そうして壁に空いた穴に両手からダイブする形で体をねじ込んだ。

 ん………………とどきそう………

 さらに細い体をまわしながら、両手でもう自分の胸のあたりにある壁をおもいきり押し込んだ。


 あれだぁ……

 あの最後の一押しが決定的だった。完全にハマってしまった。結局カードはさらに風にのってさらにギリギリ届かない位置までうごいてしまったし。

 相当マズイ。完全に身動きが取れなかった。1mmも体を動かすことができない。このままでは完全に笑いものだ。

『少女、壁にはまりレスキュー隊が救助!』そんなニュースの見出しが頭のなかで踊りだす。学校に行っても「あの子壁にハマってた子よ!」なんてクラスメイトに後ろ指をさされながら学校生活を送らなければならなくなってしまう。

 そんなのだけは避けなければ!

 魔術を使って脱出しようにも道具は見えない壁の向こう側の足元のカバンの中だ。

 あれ?詰んでない?

 本格的に焦り始めた彼女のもとに春風にのって少年の情けない声が聞こえてきた。


「あのー俺のスマホちゃーん、生きてますかー?」

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