If魔術世界
ちょこさんど
第1話 とある春の通学路
麗らかな、桜舞い散る通学路。暖かい春の日差しを感じつつも、時折吹く冷たい風にまだ少し着慣れていないブレザーの襟を直す。
帝都・東京の高校のほとんどが今日入学式だということを朝のニュースで放送していた。
それでだろう。大通りには自分以外にもかなりの数の新入生と思しき、様々な真新しい制服を着た学生を多く登校中に見かける。
「時間は…まだ結構あるな」
信号で止まった隙に、手提げのカバンからスマホを取り出し時間を確認する。
一番初めの日から遅刻してはたまらない、と家を早く出たためまだ入学式が始まるまでには、まだ相当時間の余裕があった。
同じ信号にもやはり赤や黒、白などのカラフルな学生服をきた集団が何組か止まっていた。残念ながら青いブレザーを着ていて独りぼっちなのは自分一人である。寂しくはない。うん、寂しくない。
会話する相手もいない手持無沙汰ついでに、なにかメールでも来ていないかとスマホの画面をタップしたときに、急に手の中からけたたましい着信音が鳴り響いた。
「うわっ!!」
横にいた学生たちのグループに白い目で見られながら、慌てて音を切ろうとするが、テンパってしまい上手くスマホを操作できない。
とりあえず大音量を奏で続けるスマホをズボンのポケットに突っ込み、少年はそそくさと少し離れた人通りのない路地裏に逃げ込むように走りこんだ。
暗い、恐らく人通りもほとんどない道だろう。
先ほどまでの賑やかな雑踏とは打って変わったように静かな場所であるため、ポケットの中のスマホがよりうるさく鳴り響いているように感じる。
「なんだよまったく…」
ポケットからスマホを取り出し着信の内容を確認しようとしたが、フッとスマホの電源自体が落ちてしまった。
「………………」
頭が真っ白になり、意味もなくスマホを振ったり叩いてみたり挙句の果てに何度かスマホに向かって、
「あのー、俺のスマホちゃーん、生きてますかー?」
そんなことを呼びかけてみたが、当然返答などなくスマホの画面は闇に包まれたままであった。
沈黙が辺りを包む。主に絶句して言葉を何一つ発することができないためであるが。
一度大きく深呼吸をし、そしてまた大きく息を吸い、
「オイ!まだ買ってから二週間も経ってねぇんだけど!」
誰にも聞かれることのない路地裏の男の魂のシャウトは雲一つない桜舞う春空に吸い込まれていった。
「あの~そこの残念な雄たけびを上げてる方~」
突然どこからともなく聞こえた声に警戒して身を構え、右手に意識を集中させるが、一向に姿も見えず、音源も一定の場所から動かない。
注意深く声を聴いてみると、少女のか細い声が、誰もいないと思っていた路地の奥から弱弱しく聞こえてきた。
どうにも危険性があるような誘いには思えない、そう考え警戒を解くが、次は
(今の全部聞かれてたのかよ…)
完全にスマホに話しかける痛いヤツである。
新しい生活が始まる記念の日に黒歴史を作ってしまったのかと
「もしかして聞いてた?」
「いえ~?自分のスマホにスマホちゃんって呼びかけるところなんて聞いてませんよ~?」
(ばっちり聞いてんじゃねえか…)
黒歴史が自分の年表にきれいに刻まれてしまった。
「ちょっと助けてくれませんか~?」
出会って数分と経たないまだ姿の見えない、少女と思しき謎の声からいきなり助けを求められるのは
少年の頭はこれまでの人生の中で今までにないほどフル回転し、現在の自分の置かれている状況と事の異常性を瞬時に分析し、今自分がとるべき最適解をわずか数瞬で導き出した。
(よし、どう転んでも面倒なことにしかならなそうだ)
これは確実な厄介事、もとい自分がかかわるべきことではないと判断しスルーして元の道に戻ろうと決意する。
「ちょっと!帰ろうとしてません!?足音遠ざかってるんですけど!?」
「はぁ……」
おーい!ヘルプミー!、と叫び続ける声の主にため息をつきながら少年は仕方なく近づいていく。
(俺もお人よしだな…)
進んでいった路地の奥の壁から、自分の目がおかしいのではないかと思えてしまうほどの、本当に現実かと目を疑うような光景が飛び込んできた。
「どうしてこうなった……」
そこには壁から尻が、もっと具体的に言うとスカートを履いた下半身が生えていた。
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