episode4 異世界の中の現実

ついに土曜日、約束していた商店街にあるゲーセンの前で待ち合わせた。

約束の時間になったが、りんは姿を見せない。

5分、10分と時間が経つ。

その時DMが入った。


『ごめんね、ちょっとそこまで行けなくなった。東の公園まで来てくれる」


東の公園はここから徒歩で5分ほど行ったところだ。

急いで公園に向かった。

割と広い公園だが、遊具がないせいか子どもは少なく年配の人が散歩をしたり、カップルが暇つぶししているようなところだ。


公園に入り、奥まで進む。

道の両端にあるベンチを一つずつ見て周る。


いた!


写真で見たりんが俯き加減にベンチに座っている。

近づくと間違いないと確信した。


「りん…ちゃん」


ゆっくりと顔を上げて


「C君、ごめんね、急に体調が悪くなって…」

「大丈夫?無理しなくていいよ。帰った方がいいよ。よかったら送ってくし」


「ありがとう。でも、大丈夫、それに折角の初デートなんだからもう少しC君と話していたい」

「あ、うん。でも、調子悪くなったらすぐいいなよ。あ、なんか飲む?水とか買ってこようか」


「優しいねC君は、大丈夫、でも一つだけお願い」

「えっ?なあに?」

「肩貸して」


そういうと僕の肩にリんは頭を乗せ持たれかかってきた。

彼女の髪の甘い匂いが鼻をくすぐる。

しばらくもたれかかられてるうちにすっかり日がくれてきた。


なんだか、眠い。


彼女から漂うほのかな甘い香りが、僕を何処か違う世界に連れていってしまいそうだ。


でも、彼女とならいいか…。


僕にもたれかかっているりんの頬に手を当てた。


「?!」


ものすごく冷たい。

よく見ると肌に毛穴がない。

え?まさか、アンドロイド?!

そう思った瞬間意識が無くなった。



目が覚めた時、何故か自分の部屋に戻っていた。

ポーン!というスマホの音

手に取るとチャット画面になっていて、グループチャットが進んでいた。


「ん?りん?」


アカウントは違うけど、りんのような気がする女子が僕に話しかけてくる。


「ごめんね」


どういうこと?


「あなたをこっちの世界に連れてきちゃった」


こっちの世界?


「ごめんね。一緒に居たかったから」


え?言ってる意味がわからなかったが、ふと窓の外が真っ暗なので、近づいて窓を開けてみた。


「!!」


外はただ深い闇が広がり、全てが無の世界だった。

耳をすますとかすかに何か声が聞こえてきた。


「はーい、今日から君ら中3生は『恋愛』の授業を始めます。

まずはビデオを見てもらいます」


確かに松っちの声だ。

暗闇の中に一筋の光が射す。

3DVRの画面みたいな映像が暗闇に浮かび上がる。

見知らぬ教室で大勢の生徒がこちらを一斉に見ている。

その瞬間、体が勝手に動き、スマホでチャットを始め


「え、この子、前もこのグループに入ってきたな。どんな子なんだろう…」


と勝手に口がセリフを話し始めた。


「なー、あのビデオの男、なんかお前に似てるな」


ビデオを見ている男子生徒が隣の友だちに話しかけていた。


ふと教室に目をやると松っちが"僕の方"を見ていて、わずかだが口角をあげた。




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恋愛義務化計画 美月 純 @arumaziro0808

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