episode3 シミュレーションの中の現実
「おはようC」
「あーE、おはよぅ」
「なんだよ、
「うん、まあ、ところでEは恋愛シミュレーション進んでる?」
「聞いてくれよ、それがさぁ…」
E曰く、お互い意気投合して写真を送り合う寸前でなんだか相手はヘソを曲げてしまって理由もわからないため、そこから先に進めていない、とのことだった。
他人事ではないと思いながらも自分がここまで順調に進んでいることが確認できて、少し優越感を感じた。
次の恋愛授業で、発表をすることになった。
少々考えたが、順調に進んでいるので、ありのままを話そうと思った。
「僕の相手は、隣町の同級生で、髪はショート、身長は154センチ、趣味は僕と同じゲームで、今はそのゲームの情報交換で話しが弾んでます」
一通り発表が終わると松っちが講評を述べる。
「あーC君はとても順調そうで何よりです。趣味が合ったことは大きな要因ですね。
ただし!」
また、松っち得意(?)の「ただし!」が始まった。
「順調な時ほど落とし穴もあるので、くれぐれも慎重に。そしてのめり込み過ぎないように」
皮肉?松っち35歳独身が僕に嫉妬したかな。
心の中で笑いを
帰ると自室に閉じこもり、食事以外はずっとりんとやり取りをしている。
『のめり込み過ぎないように』
松っちの顔が一瞬浮かんだか、打ち消すように首を左右にふると、送られてくるりんのメッセージを読み返す。
「わあ、ありがとう、僕の誕生日覚えててくれたんだ」
「もちろん!大好きな人の誕生日忘れるわけないじゃん」
実は少し前にお互いの気持ちは伝えた。
趣味も合い、考え方も似ていて、お互いひとりっ子で母子家庭という共通項まであり、二人は、どちらからともなく「好きだ」ということを伝えた。
そして今では一日のやり取りの締めのセリフは「好きだよ、おやすみ(ハート)」になっていた。
改めて誕生日祝いのお礼を述べるとりんがおかしなことを言い出した。
「来週の土曜日ヒマ?」
「え、特に予定は無いけど」
「じゃあさぁ…会わない?」
「えっ?」
僕は言葉に詰まった。会う?あり得ない。
こんなシミュレーション例あったかな?
「ダメかな?」
マジで言ってるのか、それともブラフで僕を試していて、僕が「会おう」とか言ったら
「ばーか、会えるわけないじゃん」とか言われるのかも。
「え、いやダメじゃないけど…僕ら会うのは難しいんじゃないかな」
「どうして?お互い好きなら会うのは当然じゃない」
なんか、展開が読めない。
「いや、そうなんだけど、物理的って言うか、僕は生身の人間だから」
「はい?私だって生身の人間だよ」
やばいAiが、自分に目覚めて人間と思い込んでしまったのか?
「ねぇ、ちょっと、もしかしたら私のことAiとか思ってる?」
「え、いや、うん」
「ちょっと待ってぇ、もしかして説明受けてない?」
「説明?」
「そう、最初は恋愛授業の一環でAi相手にやり取りしてたと思うんだけど、二週間のやり取りを見て優秀そうな人には本当の人間がAiとすり替わって本物の"恋愛"になるチャンスをくれるんだよ」
「えっ?マジで、そんな説明受けてない」
「あちゃー、本当なら恋愛授業の担任から説明があるはずだよ。もしかしてうまくいってるあなたに嫉妬して、わざと教えなかったのかもよ」
松っちならあり得る。35歳独身のサガかもしれない。
「というわけで、状況は飲み込めた?改めて聞くよ、来週の土曜日会わない?」
「もちろん!」
こうして僕たちは初デートをすることになり、二人でゲーセンに行く約束をした。
それにしても松っちのやつ、考えられん!
次の授業の時、問い詰めてやる。
次の授業の時、松っちは休みだった。
その日は自習となり、各自シミュレーションを続けた。
誰かにりんのことを話したいって思ったが、デートの約束をした後りんが
「あ、でもこのことは他の生徒には黙ってたほうが、いいよ。一人だけいい思いしてるとか思われたら、雰囲気悪くなるでしょ。私も学校では黙ってるから」
その言葉を思い出して思わず言葉を飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます