第15話

 あれから起こった事は、私の理解が追い付かないくらい、激しい出来事の連続でした。

 決闘を申し込まれたノアが、恥知らずにも逃げ出そうとしたのが始まりでした。

 逃げ出そうとはしましたが、『暁の徒士団』から逃げ出せるはずがありません。

 臆病にも、背中を見せて逃げ出そうとした途端、投石を受けてその場に昏倒してしまいました。


 気配を察するのが得意なテオの話では、数人の影供がいたようですが、恥知らずにも、主人であるノアを残して逃げ出したそうです。

 ですがその逃げ足は速く、『暁の徒士団』の斥候職でも追い付けないほどだったそうです。


 ノアの身柄は、参謀役の副団長アローンの提案で、大公府に突き出されました。

 その時に、私の身分とノアの行状が、事細かく正式な決闘状に書き記されたので、大公府の貴族も役人も、握り潰す事が出来なかったそうです。

 私は忌み子なので、表向きは、ハーン伯爵家の令嬢となっているのです。


 婚約者とは言え、士族家以上の貴婦人に対する無礼は、家に対する侮辱と同時に、貴婦人個人に対する侮辱なのです。

 ここでハーン夫妻がノアを許したとしても、私に対して剣を捧げる士族が許さないと言えば、決闘を成立させることが可能なのです。


 まして、ノア本人を捕らえて大公府に突き出したのです。

 事をうやむやには出来ません。

 それだけではなく、アローンは私が大公殿下の実子であると書き記したのです。


「大公殿下に知らせておかないと、後で事が露見した時に、役人は斬首処分となるでしょう」


 アローンはそう言って役人を脅したのです。

 帝国派や貴族派の役人がどうこうしようとしても、大公府には『暁の徒士団』団員の親類縁者がいます。

 握り潰す事も、圧力をかけて黙らす事も不可能でした。

 アローンがそう言って役人を脅したのです。


 大公殿下が、近衛徒士団に護られて、大公府の役所にまで出てきてくださいました。

 何の躊躇いもなく近づいてこられた大公殿下が、壊れ物を扱うように、抱いて下さった時には、夢を見ているのかと思いました。


「今迄苦労をかけて済まぬ。

 もう何の心配もいらない。

 今日から家族一緒に暮らすのだ」


 そう言って力を込めて抱きしめて下さった時には、無意識に涙を探していたそうです。

 後でアローンが教えてくれました。

 それからの事は、私の記憶から抜け落ちています。

 夢心地だったのでしょう。

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