第16話

「どう言う事だ、シューベルト侯爵。

 貴君がノアを逃がしたのか。

 帝国とグルになって、余と大公国を愚弄するか!」


「滅層もない。

 臣が殿下を愚弄するなど、絶対にございません。

 ノアの馬鹿が、勝手に逃げ出したのでございます」


「では、決闘逃亡罪で、死罪として構わないのだな。

 シューベルト侯爵家の名誉が地に落ちるが、それでいいのだな」


「恐れながら殿下。

 ノアは既に勘当しておりまして、シューベルト侯爵家とは何の関係もございません」


「シューベルト侯爵。

 矢張り貴君は、大公国と余を愚弄しているのだな。

 ノアの勘当届など、何処にも出ておらんではないか!」


「いえ、ノアがレーナ嬢に無礼を働いて直ぐに、勘当しております。

 大公府に確かめて頂ければ分かります。

 ノアの逃亡にシューベルト侯爵家は関係ありません」


「では、ノアの決闘逃亡罪による、死罪は認めるのだな。

 賞金を懸けて、大公国と帝国に手配をする事を認めるのだな」


「認めます」


「では、ノアがシューベルト侯爵家の一員であった時に、レーナに対して無礼を働いた事も認めることになるが、それで構わないのだな」


「構いません」


「では裁定を下す。

 レーナを我が公女と知っていながら、度重なる無礼を働いたノアに対して、斬首を命じる。

 更に、決闘を申し込まれながら、卑怯にも逃亡した事、斬首の上にさらし首を命じる。

 ノアを捕らえた者は、生死を問わず賞金として銀千枚を与える」


「「「「「はっはぁぁぁ」」」」」


「まだだ。

 まだ裁定終っておらん。

 全てを知った上で、ノアにレーナへの愚弄を許したシューベルト侯爵家は、侯爵の地位を剥奪し、全ての家財を没収し、大公領から追放する」


「なぁ!

 不当だ!

 それは不当過ぎる!」


「黙れ、ゲオ!

 御前がユリアとレーナを殺せと言った事、一日たりとも忘れたことはない。

 余はこの日を一日千秋の思いで待っていたのだ。

 死罪にならない事を感謝するのだな」


「おのれ、昏君がぁ!

 忌み子を生かしておいて、帝国に睨まれたではないか!

 しかも忌み子を嫡女にするだと?

 大公国を滅ぼす暗君がぁ!」


「黙れ不忠者!

 余を昏君、暗君と呼ぶなら、御前は売国奴だ!

 大公国は、帝国の譜代ではないぞ。

 帝国に望まれて、傘下に加わっただけだ。

 シューベルト侯爵家も帝国の臣ではない。

 大公家の加護の下で、大魔境の災厄を逃れてきたのではないか!」


「う!

 それは、大昔の話だ。

 今の大公国は、帝国の庇護なしでは成り立たぬ」


「そこまで言うのなら、地獄で確かめよ」


「え?」


 シューベルト侯爵のゲオ・シューベルトは、反乱の罪でその場で斬られた。

 シューベルト侯爵家は、先に逃亡したノア以外皆殺しとなった。

 大公殿下の恩情で、拷問などは行われなかったが、シューベルト侯爵の血縁縁者は皆殺しとなった。

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