第12話

「勝手に魔法は使わないでくれ。

 ケガをする者が出ても、俺の指示を待ってくれ。

 分かったか」

「分かったわ」


 団長のフィンは、治癒魔法の管理まで引き受けてくれるようです。

 私としてもその方が楽だし、治癒魔法が間に合わなくても、責任を感じなくていい。

 まあ、会ったばかりの私では、誰がどれだけの体力があるか分からない。

 十分余力のある人に治癒魔法を使ってしまって、その後で重傷者が出てたとして、魔力が足りなくなっていたら困るのでしょう。


 それにしても、流石『暁の徒士団』です。

 戦闘力に自信があるから、攻撃魔法や補助魔法は不要だと言われました。

 確かに大言壮語するだけの事はありました。

 大魔境に入ってから、次々と魔獣を仕留めています。


 浅い場所の魔獣だから、それほど強敵ではないのかもしれませんが、それでも全く危なげなく魔獣を斃しています。

 何よりも、若手の教育が素晴らしいです。

 私が言うのはおこがましいですが、若い団員に経験を積ませるように、ベテランが補佐しつつ実戦に加えています。


 大抵の戦士が、初陣で亡くなる事が多いと聞いています。

 冒険者も、初依頼で亡くなると聞いていました。

 それが『暁の徒士団』では、団長や幹部が認めるまでは、ベテランの従士を勤めるように、厳しく団則で決めていると言うのです。


 本来なら大公国も、騎士団や徒士団に同じ規則を設けるべきでしょう。

 ですが大公国は、歴史を重ねただけ澱が溜まってしまっています。

 高位貴族などは、騎士の誇りを失った者が多いです。

 その最たる者は、大公殿下の実弟ハーン伯爵でしょう。


 今は牙鼠や角兎を狩っています。

 若手に最初から最後まで一人で戦わせるためでしょう。

『暁の徒士団』から言えば、取るに足らない相手でしょうに、油断する事なく、若手に油断させないように、厳しく真剣に狩りに挑んでいます。


 これこそ、本来大公国が目指すべき、本当の騎士団の姿だと思います。

 今指揮を執っているのは、団長のフィン・ユングです。

 熱血漢のようですが、指揮を執っている間は、情熱を表に出さず、的確な指示を出して、誰一人ケガ一つしないようにいています。


 結局、大魔境の外に出るまで、誰一人大したケガをしませんでした。

 何の為について行ったか分からないです。

 これで試験になるのでしょうか。

 団長の考えが分かりません。


「ジオラ、こいつに治癒魔法を使ってくれ」

「え?!」

「大したケガではないが、こいつに治癒魔法を使ってくれたら、本当に使えるかどうか判断出来る」


 本当に慎重な人でした。

 私やギルドの言う事を鵜呑みにして、団員を危険に晒すような事をしないのです。

 一緒に冒険に出て、完全に安全圏に帰ってから、治癒魔法を使わせるほど慎重なのです。


 それでも、想定外の事故や、意表を突いた攻撃もあるから、狩りの間に治癒魔法を使う可能性もあると考えていたのでしょう。

 これだけ慎重な人が団長なら、仲間として認めて貰えれば、安心して狩りに参加することが出来ます。

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