第8話

「おはようございます。

 冒険者になりたいんです」

「御嬢ちゃん。

 ここは子供の来るとこじゃないぞ」


 息も絶え絶えになりながらも、何とか冒険者ギルドに辿り着けた。

 日暮れ直ぐに屋敷を抜けだしたのに、冒険者ギルドに辿り着いたのは夜明けだった。

 それでも、第一印象が大事と、笑顔で朗らかに挨拶して入ったのだが、迎えてくれたのは、おっさんのだみ声だ。


「子供でも、夢と希望があるわ。

 それを手に入れる為に、冒険者を目指しているの。

 それが悪いの」

「元気のいい御嬢ちゃんだ。

 だったら、そんなとこに突っ立ってないで、受付に行きな」


 だみ声のおっさんが、顎で示してくれたのは、入り口を真直ぐ進んだ所にあるカウンターだった。

 カウンターには妙齢の女性がいて、営業スマイルを浮かべている。

 わずかに顔が引きつっているのは、私が幼過ぎるからだろうか。

 

 でも、庶民の子供が最初に奉公に出るのは、八歳くらいからだと聞いている。

 十歳の私が冒険者になっても、おかしくはないと思うのだけれど。

 こんな所で、世間知らずが足を引っ張る。

 前世では十八まで生きたけれど、ほとんど屋敷に閉じ込められていたから、今生で慌てて集めた情報と、わずかに参加した舞踏会で聞いた話しか情報がない。


「冒険者になりたいの」

「御嬢ちゃんは幾つなの」

「十歳よ」

「冒険者は、危険な仕事が多いのは知っているの」


 なるほど。

 確かに冒険者は危険な仕事だから、特殊技能のない人間なら、屈強な身体が必要だわね。

 私の貧弱な身体を見たら、子供が何しに来たんだと思って当然だわ。

 御嬢ちゃんと言ってくれたのは、まだ優しい対応だったのかもしれないわね。


「知っています。

 でも魔法が使えるので、大丈夫だと思います」

「しぃ!

 黙って。

 うかつに魔法が使えるなんて言っちゃ駄目!」


 どうしたのかしら。

 魔法が使えると言うのが、忌み子と同じように嫌われる事なのかしら。

 でも、読んだことのある物語も、舞踏会で耳に入ってきた噂話でも、魔法使いは憧れの職業の一つだったはずだわ。


「何故言っちゃ駄目なんですか」

「魔法を使える人は貴重なの。

 御嬢ちゃんのような非力な人間が、魔法が使えると悪い人間に知られたら、何をされるか分かったものじゃないのよ」


 小声で聞く私に、受付嬢が親切に教えてくれた。

 また世間知らずが足を引っ張る。

 魔法使いがここまで貴重だとは思わなかった。

 これでは、私のような子供だと、パーティーに入って冒険するのも難しいのかな。


「でも、どうしても冒険者にならないといけないんです」

「そう。

 御嬢ちゃんも訳有りなのね。

 冒険者になりたい人は、そう言う訳ありな人が多いのよ。

 分かったわ。

 こちらに来てちょうだい」

 

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