第7話

 私の計画は、早々に破綻してしまった。

 私が想像していた以上に、虐待は私の体に負担をかけていたのだろう。

 特にろくに食事を与えられなかった事で、全然体力がなかった。

 大公都から出て他の街に行くどころか、大公都の城壁の外にもたどり着けなかった。


 もっとも、ハーン伯爵の屋敷から盗んだモノが、私には重すぎたというのもある。

 馬鹿でケチで猜疑心の強いハーン夫婦は、直ぐに盗まれるかもしれない、金銀財宝は厳重に保管している。

 でも、来客にひけらかしたい絵画や美術品は、表に飾ってある。


 もっともそんな物は、盗んでも素人には捌けない。

 捌けたとしても、盗品は評価の一割以下に買いたたかれる。

 そんな物よりも、魔法書を持ち出した。

 魔法書ならば、写本すれば何度でも御金に換えられる。

 報復すると決めてから、色々と調べたのだ。

 

 でも、立派な装丁の分厚い魔法書は、想像以上に重かった。

 今の自分が使えない、第三位階以上の魔法書も全て盗み出したから、何度も屋敷の塀を昇り降りしなければいけなかった。

 その所為で、一週間の内の一日が潰れてしまった。


 写本を作るための、ペンとインクは盗み出せたけど、白紙の紙は少ししかなかった。

 紙と一緒に、羊皮紙もあるだけ盗んだ。

 魔法陣を刻んでスクロールを作るには、羊皮紙が絶対必要だったからだ。

 今考えると、やり過ぎたと思う。


 幸運に恵まれて無事に済んだけれど、何度も塀を昇り降りしていたから、屋敷の人間はもちろん、通行人にも見つかる可能性は高かったのだ。

 本当に運がよかったのだ。

 それとも、神と悪魔が手助けしてくれたのか?


 だが、体力のなさを思い知った私は、早急に寝床を探さなけらばいけなかった。

 馬鹿でケチで猜疑心の強いハーン夫婦は、一週間気が付かないと思うが、屋敷の誰かが私がいない事に気が付く可能性もある。

 だから、直ぐ調べられる宿に泊まるわけにはいかなかった。


 だからと言って、教会に保護を求める訳にもいかない。

 忌み子の私を、教会が保護してくれたりはしない。

 野宿は論外だ。

 だから、直ぐに冒険者ギルドを尋ねる事にした。

 冒険者ギルドなら、自前の簡易宿泊所を持っている。


 何よりも、冒険者ギルドは常に腕利きの冒険者を欲している。

 特に不足しているのが魔法使いだ。

 次に求めているのが、神官や精霊使いと言った、癒しの技を持つ人材だ。

 単に腕っぷしの強い人間は、常時冒険者を目指してやって来る。


 庶民にとっては。

 特に家を継げない次男三男には、冒険者が成り上がるための近道なのだ。

 私にとっても、実力と名声を得るには、冒険者が一番だ。

 本当は、帝国領に入ってから冒険者になる心算だったのだが。

 ここは妥協するしかない。

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