第6話

「御養父様と御養母様はどこに行かれたの」

「大公宮の舞踏会でございます」

「いつ戻られるの」

「八日後でございます」


 矢張りそうだ。

 今日から一週間連続の大舞踏会が開催される。

 前世でもあった事だが、矢張り今生でも開催された。

 前世では大舞踏会の前に虐待され、参加出来なかった。


 今生は虐待からは逃れられたが、結局は参加させてもらえない。

 今生は、ハーン夫婦を怒らさないように、細心の注意を払っているから、虐待される機会が減っている。

 だが、私が視界に入るのも嫌なのだろう。


 大舞踏会は、全貴族が大公宮に泊りがけで参加する。

 その前で、忌み子の私と一緒にいるのが嫌なのだろう。

 派手好きなハーン夫婦は、当然着飾って参加する。

 身だしなみを手伝う家臣も連れて行くから、この屋敷は手薄になる。

 屋敷を逃げ出す絶好に機会なのだ。


「そう。

 だったら私は、一週間礼拝堂に籠って祈っているわ。

 だから誰も来ないで」

「分かりました」


 好きにすればいいと言うような、投げやりで興味もないといった言い方だ。

 だがその方が、逃げ出すのに好都合だ。

 私が逃げ出したのをハーン夫婦が知ったら、流石にハーン夫婦も慌てて探すだろう。

 私が行方不明になったら、父上様と母上様に申し開きしなければいけなくなるからだ。


「集中したいから、一週間分の食事を持ち込んでおくわ。

 だから日持ちのするパンとチーズをちょうだい」

「御嬢様の食事は、健康の為に、黒パンとオートミールに決められております」

「貴方達、三度三度パンとオートミールを礼拝堂に運びたいの」


 私に与えている屑黒パンとオートミールは、最低辺の使用人に与えているモノだ。

 チーズは、ハーン家では上級使用人にしか与えられない。

 だが私は知っている。

 馬鹿なハーン夫婦に分からないように、多めの高級食材を仕入れて、横流ししているのを。


「それは出来ません」

「貴方達が、食材を横流ししているのをばらすわよ」

「なんだと!」

「私を殺せば、大公家から調査が入るわよ」

「ちぃ!

 チーズくらいくれてやるよ。

 この忌み子が!」


 本性が出たね。

 普段は隠していても、こういう時には、下劣な本性が出る。

 でも、使用人達も私が忌み子だと知っていたのだ。

 私が主人であるハーン夫婦に嫌われているから、冷酷に扱っていたのではないのだ。

 忌み子と言うのは、ここまで嫌われるモノなのだ。


 帝国が大公国を併合すると決めたのも、大公国の高位貴族が揃って裏切るのも、それが原因だとしたら、よほど努力して名声を得ないと、逆転することは出来ないだろう。

 でも、死んでから見た姉上の墓は、民に大切にされていた。

 前世の姉上を目標に努力すれば、少なくとも民の心を掴む事だけは可能だろう。


 まずは、使用人に見つからないようにして、屋敷から逃げ出す。

 一週間礼拝堂に籠ると言ったから、逃げる所さえ見つからなければ、一週間の時間を使って遠くに逃げられる。

 出来れば帝国領に入り込む!

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