第5話

「何て目で私を見るの」

「ごめんなさい、御養母様」

「御黙り!

 宮殿以外で、私を御養母様と呼ぶんじゃありません」


「ごめんなさい」

「御黙りなさい。

 言い訳など聞きたくありません。

 今日の夜会には出なくていいわ」


「はい。

 分かりました」

「ふん。

 何度言って理解できない馬鹿ね」

「もう行くぞ」

「はい、貴方」


 最初から夜会に連れて行く気など全くなかったのに、いかにも私が悪いから連れて行かないような言い方をする。

 昨日の私への折檻が過ぎて、顔に青痣が残っているから、父上様や母上様に会わせられないのだ。


 ずっと私が病弱だと偽って、父上様と母上様に極力会わさないようにしていたのだと、一度死んだ今なら分かる。

 養母は嗜虐心の強い馬鹿なのだ。

 私を虐める誘惑に負けて、限度を超えた虐待を止められないのだ。


 だが、これは好機なのだ。

 ハーン夫婦のいない間に、魔法の勉強が出来る。

 口煩くて性格も悪いハーン夫婦がいない間は、屋敷の使用人達も羽を伸ばしているから、私が屋敷内を探っても大丈夫だ。


 礼拝堂での祈りは、ハーン夫婦が屋敷にいる時でも出来る。

 だが図書室で本を探すのは、ハーン夫婦がいない時しかできない。

 ケチなハーン夫婦は、高価な本を私が触るのを極端に嫌う。

 私だけではなく、誰が本を触ろうともカンカンに怒る。

 彼らにとって本とは、読むものではなく、財力を自慢するだけのモノなのだ。

 だから、奇麗に図書室に飾っておくだけのモノなのだ。


 だが私には、大切な武器だ。

 力を付けるためには、どうしても必要なモノだ。

 常時利用することが出来ないから、一分一秒も疎かにせず、集中して覚える。

 一度読んだら、一言一句も間違わずに暗記してみせる。


 どうしても難しい呪文や魔法陣は、身体に書き記す。

 ケチなハーン夫婦は、私に紙もペンも与えてくれないから、暖炉の残り炭を使って体に描くしかない。

 だがそれも、私の部屋では暖炉を使わせてもらえないから、暖炉のある部屋に入り込んで盗まないといけないから、極力暗記した方がいい。


 いざと言う時の為に、換金出来る物と武器に出来る物を物色しているが、幼くて力のない私には、屋敷から担いで持ち出せる物には限度がある。

 少しずつ持ち出す事も考えたが、馬鹿でケチなハーン夫婦に見つかったら、間違って殴り殺されてしまうかもしれない。


 父上様の実弟であるハーンは、私が死んでも継承権があるのだ。

 父上様に疑念を抱かせないために、私を先に殺さなかったが、心の中では、別に私など死んでも構わないとも思っていたのだろう。

 そうでなければ、あれほどの虐待を加える事など出来ない。


 まずは第一位階の魔法だけでも覚えないと、この屋敷を逃げ出す事も出来ない。

 それに屋敷を逃げるだけでは駄目だ。

 生き延びなければならない。

 その為には、第二位階の魔法までは覚えておきたい。


 今日中に眠りの魔法だけは絶対に覚えて見せるわ!

 

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