第4話
「御養父様と御養母様はどこに行かれたの」
「夜会でございます」
「そう。
ありがとう」
「どういたしまして」
愛情も尊敬のかけらもない、慇懃無礼な返事だ。
家臣が主人の娘にしていい態度ではない。
だが、主人が娘を虐待して喜んでいるのだから、家臣が娘に敬意を払うはずがない。
もう慣れている。
この世界では十年だが、前の世界では十八年耐えた。
今更傷つくような柔な心は持っていない。
だがそれでも、気持ちのいいモノではない。
いつか必ず報復する。
前世では諦めていたが、私だって姉上と同じ血が流れているのだ。
姉上が聖女と呼ばれるほどの聖の魔法使いなのだから、私も努力次第で魔法が使えるはずだ。
実力も付けなければいけないし、人脈も作らないといけない。
帝国が大公国に魔の手を伸ばしているのだから、高位貴族は軒並み懐柔しているだろう。
あの時のハーン夫婦の会話から考えると、大公国軍は国に忠誠を誓っているはずだ。
だがそれでも、私の言う事は信じてもらえないだろう。
子供だと言う以上に、双子と言うのが問題だ。
双子と言うのは、この国では忌み嫌われる存在だ。
庶民なら、一人は密かに殺して、双子であったことを隠す程だ。
代々子供が産まれ難い大公家でなければ、私は殺されていただろう。
そんな後継ぎを切望する大公家でも、公式には姉上一人だけが産まれたことになっている。
姉上に万が一のことがあった場合や、姉上が子供を授からなかった時の為に、密かに叔父夫婦に預けられているのだ。
そんな忌み子だから、実力を示さなければいけない。
そうしなかれば、どれほど正しい事を言っても、聞いてもらえない。
姉上はその為に努力されたと思っていた。
公式には一人っ子だとされているが、高位貴族の全てが、姉上が双子だったことを知っている。
実力を示さなければ、大公家の一人娘であろうと、忠誠心を獲得出来ないのだと思っていた。
たゆまぬ努力を重ねられて、聖女と呼ばれるほどの実力を身に付けられたが、それは御自身と大公国の為だと思っていた。
前世では、私も一杯一杯で、姉上の苦しみまでは分からなかった。
ただ、羨ましかった。
妬ましくもあった。
でも、全て私の為だったのだ。
姉上は私を大公家に取り戻すために努力してくださっていたのだ。
今この時も、努力してくださっているのだ。
私は前世で散々苦しんだ。
だが、努力したとは言えない。
独力で魔法を覚えるのは厳しいだろう。
でも、ここはまがりなりにも伯爵家の屋敷だ。
大公殿下の弟の屋敷だ。
魔法の書くらいはあるだろう。
まずは魔法の書で基礎を学ぶ。
その上で、今度は自分が助かるためではなく、父上様と母上様、姉上と大公国の民を助けるために、神に力が欲しいと祈ろう。
悪魔でさえ私に力を貸してくれたのだ。
神も何らかの助力は与えてくれるはずだ。
私が悪魔の力でこの国を救ったら、この国は悪魔を祭る国になるだろう。
そんな事は神も望まないはずだ。
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