第38話

 キラムが所属する盗賊団は、貴族からギャラハー王国の偵察を請け負った。

 キラムが所属する盗賊団だけではなく、あらゆる裏組織が請け負っていた。

 だがその全てが叩き潰された。

 見所の有る人間だけが助命され、逆にオキャラン王家に送り込まれた。

 だがその前に、大切な人を助け出す機会を与えられた。


 皆感激した。

 今迄は貴族士族と言った強者に踏みつけにされ、搾取され続けていたのに、心から大切にされたのだ。

 大切な人が、絶対安全なギャラハー王国で、卒族として身分と生活が保障されるのだ。

 忠誠心が溢れた。

 まあ、恩を感じる人間だけが見込まれ許されたのだが。


 そんな寝返った斥候が集めてきた情報を、オシーン皇子・コナン王・アルバー王太子が遺憾なく活用した。

 斥候をオキャラン王国の城や王都の館に入り込ませた。

 決戦時に中から城門を開かせたり放火したりさせるためだ。

 着々と準備が進んでいた。


 だがイーハ王とルアン皇太子も準備を進めていた。

 いやルアン皇太子が暴走したと言ってもいい。

 マカァ姫が皇国内で暴れ回っていると知って、それを理由逮捕し、無理矢理手籠めにしようと考えたのだ。

 ルアン皇太子は兄の元婚約者を凌辱する欲望を抑えられなかった。


 イーハ王は強く反対したが、傲慢なルアン皇太子は聞く耳を持たなかった。

 仕方なくイーハ王は、ルアン皇太子が殺された時の策を準備する事にした。

 ルアン皇太子は自分の事を強いと思っているが、実際にはそれ程強くない。

 確かに普通の人間基準では強いが、ギャラハー騎士団基準では並以下だ。

 先の戦争でイーハ王はそれを思い知らされている。


 だから第三皇子以下の皇子達から、自分の意のままに操れる人間を人選する事にした。

 皇帝陛下を人質として確保する策も用意した。

 ルアン皇太子が殺された場合は、即座に皇子の一人を皇太子据え、皇帝陛下を暗殺する策も準備した。

 オシーン皇子とコナン王の動き次第で、あらゆる手を打てるようにした。


 そして何より自分の安全を最優先した。

 王城の奥深くに籠り、コナン王がギャラハー騎士団を率いて攻め込んで来ても、生き延びて負けない体制を築いた。

 皇都に関しても、同調する王家貴族の軍勢を駐屯させ、何が起きても対応できる体制を採った。

 万全の体制を築いた心算だった。


 愚かな行動をとるルアン皇太子斬り捨てる決断をしたに等しかった。

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