第37話

「心配しなくていい。

 支援に斥候組頭のブレンダンを付ける。

 お前は何も心配せずに、妹を助け出せばいい」


「ドナハ王子殿下。

 ありがとうございます。

 本当にありがとうございます」


 キラム・ノーランは、イーハ王に組する貴族の放った斥候だった。

 元々は農民の子供だったのだが、税が払えない両親が売ったのだ。

 いや、売らされたのだ。

 貴族の家臣と結託する奴隷商人に税の代わりに取られたのだ。

 売る売らない以前の問題なのだが、公的書類には両親が売ったことになっていた。


 キラム・ノーランは子供の奴隷として酷使された。

 顔立ちがよかったために、少年男娼にされてしまった。

 地獄のような生活だった。

 だがキラムは挫けなかった。

 必ず生き延び報復すると誓った。


 キラムが最初に覚えたのは、人の心を読む事だった。

 自分を買った相手の顔と仕草を見て、心を読む術を会得した。

 殴られないように。

 殺されないように。

 油断すれば、奴隷男娼など簡単に殺されてしまう。


 金で拷問殺人の愉悦を買う貴族士族もいるのだ。

 復讐する為には、生き残らなければならない。

 その必要から、読心術を会得した。

 その力を使って上手く立ち回り、金持ちに買って貰った。

 そこで身体を使って歓心を買い、剣術を学ぶ機会を得た。


 だがそこも直ぐに駄目になってしまった。

 金持ちが盗賊に襲われたのだ。

 一家皆殺しにされ、有り金全て奪われた。

 キラムも殺される所だったが、美貌と読心術が命を救った。

 上手く立ち回って、盗賊団の仲間に入ったのだ。


 最初は身体を使って立場を築いた。

 初歩的な手ほどきしか受けられなかったが、剣術も続けた。

 盗賊団の斥候からも積極的に学んだ。

 盗賊団で学べることは全て学んだが、特に斥候術を学んだ。

 逃げる心算だったからだ。


 学びながら、時を待った。

 数年間は盗賊団のアジトで身体を張って生き延びた。

 ある程度成長してからは、引き込み役をやらされた。

 金持ちの下働きに送り込まれ、機会を見て戸を開けて、盗賊団を引き入れるのだ。

 自分で人殺しはしなかったが、その手助けはしていた。


 そんな間も、剣術と斥候術を学び続けていた。

 天与の才能が有ったのだろう。

 盗賊団で学べる斥候術は全て学んだ。

 戦場での技術は学べなかったが、民家に入り込む術は天下無双となっていた。

 剣に関しては、技を学ぶ機会はなかったが、ただ一剣を突き斬る速さと強さを極めた。


 復讐に賭ける一念は、並の技では防げない突きと斬り込みを学ばせた。

 その速さと強さは、並の剣士を一刀で斬り殺す程だった。

 だがまたしてもキラムの運命は大きく動くことになった。

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