第34話

 イーハ王はオシーン皇子を殺す心算だった。

 イーハ王もオシーン皇太子が策を巡らしているのに気が付いていた。

 だから最初から約束を守る気などなかった。

 皇帝陛下・オシーン皇太子と何度も条件を話し合いながらだ。

 もっともそれはお互い様だったが。

 

 権謀術数の中で、皇国で一番の権力者となったイーハ王だ。

 戦争ではコナン王の足許にも及ばなくても、謀略では負けない思っていた。

 第一コナン王のように信義を護っていては、謀略で後れを取るのが普通だ。

 だから勝てると確信していた。

 戦争にしないでオシーン皇太子を殺せばいい。


 暗殺なら簡単な話だ。

 だがコナン王が皇都にいる間は、皇都での暗殺は駄目だ。

 オシーン皇太子を殺せても、自分が殺されたら何にもならない。

 コナン王かオシーン皇太子を皇都から追い出すしかない。

 それも自分かコナン王が皇都外にいる条件でだ。


 権謀術数の限りを尽くし、オシーン皇太子を廃嫡にして皇都から追い出した。

 心ならずも自分も皇都から出る羽目になった。

 本当はコナン王を皇都から追い出したかったが。

 だが好機であることには変わりない。

 居城に籠り、そこからオシーン皇子暗殺の指揮を取ればいい。


 前回の戦争では大恥をかいたが、あれを機会に城は大改修してある。

 今度は少々の攻撃にもビクともしない城門に強化してあった。

 いくらギャラハー馬でも、今度の城門は破れない。

 そこまで手を打っての暗殺実行だった。

 それでも、イーハ王は姑息だった。


 オシーン皇子暗殺は自分の配下には実行させない。

 家臣に指揮も執らせない。

 自分にすり寄って来る貴族に謎賭けをして、暗殺者を用意させた。

 暗殺に失敗しても、自分が係わった証拠は一切残さない。

 そして費用も自分では支払わない。

 自分にすり寄って来る貴族に負担させた。


 多くの貴族が、領内の犯罪組織や狩人を使って、オシーン皇子暗殺を謀った。

 多くの者が大魔境に入り込んだ。

 だが大魔境で生き残れる者はほとんどいない。

 大魔境に住む魔獣は、並の魔境に住む魔獣とは桁違いに強いのだ。

 ほとんどの者が、魔獣に喰い殺された。


 金で人を暗殺しようとしたのだから、当然の報いだった。

 まして相手は聖者とまで評されたオシーン皇子なのだ。

 天罰覿面とはこの事だった。

 だが、少数の腕利きは大魔窟にまで入り込んだ。

 半死半生の者が多かったが、中には無傷で入り込む強者もいた。


 だがそんな者も、大魔窟の魔獣には敵わなかった。

 生きたまま腹を喰い破られ、内臓を貪り喰われた。

 激痛の中でのたうち回って死んでいった。

 そんな大魔窟の強大な魔獣を、デグラ・ギャラハーに鍛えられた騎士や徒士は、徐々に狩れるようになっていた。


 オシーン皇子は着々と力を付けていた。

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