第26話

 モアの話は、聞くに堪えないほど卑怯なモノでしたが、聞き始めた以上、最後まで聞かなければなりません。

 モアを人質に取られたダラは、わざと負ける事にしたそうです。

 ですが最後の誇りで、剣一本で立ち会ったそうです。


 双剣の使い手として勇名を馳せているダラ・オフラハーティが、剣一本で試合に挑む。

 しかもあれほど嫌がっていた試合に急に応じた。

 少し調べれれば、キラン・バーンの悪事など直ぐにばれます。

 ですがバーンは知恵が薄く、その事に気が付かなかったそうです。


 一本の剣だけで応じたダラ・オフラハーティでしたが、大盾のような化物じみた剣を振るうキラン・バーンを相手に、互角以上に戦ったそうです。

 キラン・バーンに勝つことなく、しかし負ける事もなく、延々と試合を長引かせたそうです、

 モラを助け出すために。


 オフラハーティ家には、血縁はほとんどいなかったそうです。

 ですが、譜代の家臣がいたのだそうです。

 若党・槍持ち・手綱持ち・鎧持ち・小荷駄の五人の卒族家族がいたそうです。

 皆忠臣で、家族揃って、命懸けでモラを救出しようとしてくれたそうです。


 卒族とは言え、誇り高いダラ・オフラハーティの譜代家臣です。

 剣の修行も槍の訓練も、怠りなかったそうです。

 その腕前で、モラが捕らえられていたバーン家の屋敷に斬り込んだそうです。

 激烈な戦いだったそうです。


 キラン・バーンも屋敷の襲撃には気を付けていたそうで、親類縁者に嘘をついて留守番を頼んでいたそうです。

 ダラ・オフラハーティが鍛え上げた卒族と、皇家に仕える騎士と徒士。

 激烈な殺し合いになったそうです。

 多くの者が死傷したそうです。


 ですが、オフラハーティ家の家臣達は、命を捨てて探し出したそうです。

 蔵に閉じ込められていた、モラを見つけ出したそうです。

 バーン家の親族は騒然としたそうです。

 留守番を頼まれていた家に、攫われた子が閉じ込められていたのです。

 自分達が誘拐犯の手先に成り下がっていたことに気が付いたのです。


 ここで悔い改めれば、皇家の騎士徒士として誇りを保てたでしょう。

 ですが、保身に走ったのです。

 バーン家がイーハ王の眼に留まった事で、立身出世がちらついたのかもしれません。

 モラ達を皆殺しにする事で、口封じしようとしたのです。

 恥知らずな話です。


 オフラハーティ家の家臣五人は、皇家の正規騎士と正規徒士を討ち果たしたそうです。

 ですが、ほとんど相討ちだったそうです。

 それはそうでしょう。

 下劣とは言え、皇家の騎士と徒士が相手だったのですから。

 五人は討ち死にしましたが、彼らにも父もいれば子もいました。

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