第25話

「随分と剣術が盛んね」


「はい。

 ここの領主、キラン・バーン子爵家は、はぐれ魔獣の討伐で武名を上げた、剣が得意な騎士上がりの子爵です」


「聞いたことがあるわね。

 オキャラン王家が主導したはぐれ魔獣の討伐で、常に先陣を切っていたと言う、猪突猛進の騎士だよね。

 でも騎士から子爵とは、凄い出世ね」


「はい。

 我がギャラハー王家が常に魔獣退治で活躍しておりますので、対抗するのに英雄が必要だったのでしょう。

 キランの名が広まるように御膳立てした、芝居のような討伐でございます」


「モアには何か含む所があるようね。

 詳しい事情を教えてくれる?」


 妾達が立ち寄った貴族領では、盛んに剣術の訓練が行われていました。

 その激しさは、少々のケガなど恐れていないかのようでした。

 正直のこの地の領主を評価していたのですが、モア・オフラハーティには何か遺恨があるようで、表情にも言葉にも険がありました。


 話を聞くと、それも仕方がないモノでした。

 剣に誇りを持つ者。

 貴族士族であれば、絶対にやってはいけない事。

 それを平気でやり、立身出世の糸口にしたのがキラン・バーンでした。


 モアのオフラハーティ家と、キランのバーン家は、共に皇家に仕える騎士家だったそうです。

 普通の騎士家は、剣ではなく槍を主力にします。

 騎士の誓いでは剣を捧げますが、実戦では間合いが大切なので、少しでも長い武器が有利なのです。


 ですがオフラハーティ家とキランのバーン家は、馬上でも剣を主戦力とする珍しい家だったそうです。

 その珍しさが、剣の誓いと相まって、オキャラン王家のイーハ王の目に留まったそうです。

 そこで、イーハ王の前で御前試合をする事になったそうです。


 最初モアの父ダラ・オフラハーティは、イーハ王の命に逆らったそうです。

 ダラ・オフラハーティは、自分の剣は皇帝陛下に捧げたモノで、いくらオキャラン王家のイーハ王の命であろうと、酒席の座興にされるのは我慢ならんと言い放ったそうです。

 誇り高きことです。


 ですがキラン・バーンは、これを出世の好機と考えたのだそうです。

 事もあろうに、まだ幼かったモアを誘拐して、人質に取って勝負を強要したのです。

 しかもわざと負けろと脅したのです。

 卑怯極まりない事です。


 産後の肥立ちが悪く、モアを残して母親は亡くなっていました。

 祖父は魔獣との戦いで名誉の戦死を遂げていたそうです。

 祖母は祖父の死に気落ちしたのか、祖父を追うようになくなっていたそうです。

 モアは、ダラにとってただ一人の肉親だったと言うのです。

 そんなモアが人質に取られて、ダラがまともに戦えるわけがないのです。

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