第22話

 イーヴィンが使った矢の鏃は、鏃の部分が二股になってる、狩猟用のモノです。

 大雁股と呼ばれる、手の平くらいある大きな鏃で、別名頚落としと呼ばれるほどの鏃なのです。

 その矢を使って、狙って子爵の腕を射落としたのです。


 イーヴィンの腕前を見た者は、逃げようとは思わないでしょう。

 背中を見せた途端、矢で頚を射落とされてしまいます。

 もはや誰も何も言わず、一歩も動かないです。

 ただ、痛みに泣き叫ぶオハラ子爵の声が響くだけです。


「問答無用。

 キアン・オハラとスミス・ドゥリスコルを連れてこい。

 さもなくば、この城にいる者を殺し尽くす。

 武舞姫の異名に誓って断じて行う!」


 人は卑怯なモノです。

 今迄散々キアン・オハラとスミス・ドゥリスコルに媚びへつらっていた家臣達が、今度は姫様に媚びへつらい、オハラ子爵、キアン・オハラ、スミス・ドゥリスコルに襲い掛かりました。


 ドゥリスコル一族は抵抗しました。

 私が姫様の嬢子団に加わっている以上、絶対に許されないと思ったのでしょう。

 死に物狂いで抵抗しました。

 ですが、相手になる訳がないのです。


 私達は猛獣とも言えるギャラハー馬にまたがっているのです。

 馬上の騎士と徒士では全く勝負にならないのです。

 実力以前の問題で、馬上の騎士が圧倒的に有利なのです。

 その上で、実力も段違いなのです。


 姫様を護る嬢子団は、コナン王が姫様の為に厳選した一騎当千の戦士です。

 忠誠心は当然の事として、どれほど名門の譜代家臣家の出身でも、実力の伴わない者は入団が許されないのです。

 一方私のような訳有りの流れ者でも、実力を認められたら幹部に登用して頂けるのです。


 そんな嬢子団に、父上亡き後に腐ったオハラ子爵家の者が、敵う訳がないのです。

 ですが、腐った者同士の戦いは無様です。

 命惜しさに、へっぴり腰で戦うのです。

 見苦しい事この上ありません。


「ベイタ。

 正々堂々と一騎討ちをやりなさい。

 立ち合いは私達がやってあげます」


「ありがとうございます」


「許してくれぇぇえ。

 私じゃないんだぁ。

 家臣達が勝手にやった事なんだぁ。

 私は悪くないんだよぉ」


「情けない奴です。

 構いません。

 かかって来なければ嬲り殺しにしなさい」


「はい」


 キアン・オハラとスミス・ドゥリスコルは、情けなくも地べたに這いつくばって言い訳しています。

 しかし、そのようなたわごとを聞く必要はありません。

 父上様、母上様、弟妹の敵を討つために、ただでは殺しません。

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