第19話
身も心もボロボロになったベイタは、父母弟妹が嬲り殺しになった事を知らず、教会で抜け殻になったように暮らしていた。
自分から飲食をする事もなく、シスターに全ての世話を受けて、生きた屍のように暮らしていた。
だが、それを不憫に思ったシスターの一人が、ベイタに家族の不幸を伝えた。
それを聞いたベイタは、聞いた者が死を選びたくなるような、絶望の絶叫をあげた。
シスターはベイタを叱咤激励した。
家族の敵を討てと強く励ました。
そこで初めて、ベイタの目に光が宿った。
生き続ける目的を得たのだ。
ベイタはシスターに話をせがんだ。
真実の詳し話を聞かせてくれるように願った。
シスターは使える限りの伝手を使い、全てを知り、それをベイタに伝えた。
腰巾着の下種共が、家族共々処刑されたのを知った。
だが、本当の外道、キアン・オハラが皇都でのうのうと暮らしているのを知った。
絶対に許せなかった。
自分の手で、恥辱に満ちた死を与えたかった。
だが今の自分では、絶対に不可能だと言うのも分かっていた。
だから、なりふり構わず、手段を択ばず、復讐できる方法を探した。
しかし、父の誇りも大切にしたかった。
悩みに悩んだ結果、自分を鍛えるしかないと言う結論に達した。
シスターも手を貸してくれた。
だが、オハラ子爵領にいる限り、子爵家の眼から逃れられない。
武芸の稽古をするには、他領に行くしかない。
それも近くでは駄目だ。
出来るだけ遠く。
オハラ子爵家とは縁も所縁もない領地がよかった。
いや、出来る事なら、敵対している領地の方がよかった。
敵対している家だと、オハラ子爵家の家臣筋だと分かれば、その場で殺されるかもしれない。
だが、正直に全てを話せば、わずかだが受け入れてもらえる可能性もある。
もしかしたら、刺客に丁度いいと判断して、訓練をしてくれるかもしれない。
そう考えて、シスターにオハラ子爵家と敵対している貴族を調べてもらった。
でも、シスターが勧めてくれたのは、ギャラハー王家だった。
ベイタでも名を知っている、尚武の王家だ。
皇帝陛下の信頼も厚く、仁義を弁えた武断のコナン王が当主を務めておられる。
名門中の名門王家だ。
そのような名門王家が、訳有りの自分を受け入れてくれるわけがない。
そうベイタは考えたのだが、シスターの考えは違った。
尚武の名門王家だからこそ、正直に理由を話せば、仇討ちに協力してくれると言うのだ。
ベイタは半信半疑だったが、シスターは教会の伝手を使い、ベイタの状況を全て正直に書いて、ギャラハー王家に送った。
教会を通じて色んな人の手を渡り、最終的にギャラハー王家第二王子ケビンに伝わり、マカァ王女の戦闘侍女訓練所に入れることになった。
シスターの手助けを受けて、ベイタは教会から抜け出し、オハラ領から逃げ出す事に成功した。
そして戦闘侍女訓練所の激烈な訓練に耐え抜き、指折りの戦闘侍女となった。
だがその頃シスターは、ベイタ逃亡の責任を取って自害していた。
シスターは実家の行いが許せなかった。
父の行いを、武家として恥だと思っていた。
本家の恥辱を雪がず、本家の領地をもらって黙認するなど、絶対に我慢出来なかったのだ。
だから、命を賭けて意地を通し、誇りを取り戻したのだった。
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