第18話

「キアン!

 おのれはどこまで馬鹿なのだ!

 この乱心者が!」


「何を怒っておられるのです?

 父上。

 父上が武力を示して恐怖を与えよと申されたのです。

 私は言われた通りにしただけです」


「この、馬鹿者が!

 御前が与えたのは恐怖ではなく屈辱だ。

 屈辱を受けたままにすれば、ドゥリスコル家の一門は子爵家では生きていけぬ。

 他家に行くことも出来ぬ。

 何があっても報復に来るぞ!」


「そんなぁ。

 御助け下さい父上。

 どうか、どうか、御願します。

 親子ではありませんか!」


「仕方あるまい。

 御前を見殺しには出来ぬ。

 ドゥリスコル家の領地は没収しようと思っていたが、一門の者に与えて懐柔しよう。

 いや、一門全てに加増をせねばならんな」


「そこまでせねばなりませんか。

 何なら私がまた攻め殺しても宜しゅうございますが?」


「黙ってろ腰抜けの乱心者が!

 おい、キアンを馬車に乗せて王都に向かえ。

 それと、キアンの腰巾着を斬り殺せ。

 これまでの事は、全てあいつらがやった事にしろ」


 オハラ子爵は、息子可愛さに全てを隠蔽する決断をした。

 幸いと言うか、イーを殺す事が出来たし、妻子は衆目の前で輪姦された事を恥じて自害していた。

 妻子を哀れと思った古参の兵士が、そっと自害用の短剣を与えたのだ。


 ドゥリスコル家の親類縁者に関しても、腰巾着に全ての罪を着せて処刑し、ドゥリスコル一門の誰かを取り立てて本家を継がせ、一門全員に加増して利益を与えれば、実利と面目の両方を与えることになる。

 そこまで配慮すれば、我慢するだろうと考えたのだ。


 問題はベイタ・ドゥリスコルだった。

 自分が正式な使者を立てて息子の側室に迎えたのだ。

 キアンが二度目の馬鹿をやる前は、殺してしまえばよかった。

 だが、今ではキアンの悪行が領内の隅々まで伝わってしまっている。


 今からベイタを殺してしまうと、余りにも外聞が悪すぎる。

 ドゥリスコル一族一門の面目が立たなくなる。

 ドゥリスコル一族一門の面目を立てながら、口を封じる方法。

 教会に幽閉する事にした。


 表向きは、家族の不幸を知って心に病になった事にして、療養の為に教会に預ける。

 実際は、余計な口を利かないように終生教会に閉じ込める。

 ドゥリスコル一族一門には、本家を与える事と、ベイタを殺さない事で懐柔する。

 何より多少は良心が咎めた。


 気に食わない家臣を上意討ちするのは構わない。

 それは主君の権利だと思っていた。

 だが、士族を婦女子を衆目で輪姦するのは外道の仕業だ。

 これだけは言い訳出来ない。


 皇帝陛下に知られたら、間違いなく子爵家は取り潰される。

 それほどの醜聞だ。

 知らなかったとはいえ、その片棒を担いだのだ。

 いや、二度目の行いは、そこまでやるとは思っていなかったが、自身が主導したのだ。


 それを握り潰すのだ。

 わずかに残った良心が咎める。

 殺さずに幽閉する。

 幽閉の待遇もキアンも側室として遇する。


 全ての費用は、キアンを唆した腰巾着共の家を取り潰して捻出すればいい。

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