3章

第15話

「おい。

 あれ、ブス姫じゃねえのか?」


「そうだ。

 あの背格好だ。

 ありゃブス姫に違いない。

 ブスな顔を見られるのが嫌で、マスクをしているんだ」


「おい、ブス姫。

 おめおめと戻ってきたのか。

 もうお前の帰るとこなどないぞ」


「あ!

 こら。

 私が殴る心算だったのに」


「姫様の手を穢すわけにはいきません。

 このような虫けらは始末は、我々に御任せ下さい」


「仕方ないわね。

 ところで、ベイタ。

 ここが貴女の故郷だったの?」


「御見苦しいところを御見せして申し訳ありません。

 姫様」


「そんな事はいいけど。

 このような虫けらが、陪臣とは言え騎士を務めていると言う事は、ここを領する貴族もたいがい腐っているようね。

 事情を聞かせてくれるかしら」


 マカァ姫の側近くに仕えるベイタ・ドゥリスコルは、ギャラハー王家譜代の家柄ではなかった。

 その武勇と人柄を買われ、マカァ姫に取り立てられた者だ。

 マカァ姫は懐の広い人間で、過去を詮索するような事はしなかった。

 ギャラハー王家の重臣は当然調べたが、問題なしとしてマカァ姫には伝えなかった。


 だが、大魔窟に向かう途中で、世直しをしようと考えているマカァ姫には、それぞれの貴族家の内情を知る必要があった。

 偵察術に優れた斥候役の戦闘侍女を先行させ、色々と調べさせてはいたが、その領地出身の者がいるのなら、その者から聞いた方が遥かに正確だ。


 ベイタ・ドゥリスコルの話は酷いモノだった。

 ベイタ・ドゥリスコルの生家、陪臣准男爵家のドゥリスコル家が仕えていたのは、オハラ子爵家と言う中堅貴族だったが、その家の若殿が酷い男だった。


 阿諛追従をする家臣を引き連れて城を出て、城下の若い娘や若妻を、恋人や夫前で輪姦したのだ。

 その凶行をオハラ子爵家の重臣でドゥリスコル家の当主でもある、ベイタの父イー・ドゥリスコルが口を極めて諫めた。


 だがその忠心からの諫言は報われなかった。

 逆恨みしたオハラ子爵家の若殿は、邪悪な奸計を企てた。

 父であるオハラ子爵家当主を通じて、正式にベイタ・ドゥリスコルを側室に入れろと命じたのだった。


 表向きは名誉な事だった。

 准男爵と言う名誉な身分を与えてくれた主家が、若殿の側室に娘を迎えてくれると言うのだ。

 家柄から言って、正室は絶対に皇国直臣の伯爵家から男爵家の長女を迎えるしきたりだ。


 側室も、皇国直臣の伯爵家から男爵家の次女以降、もしくは准男爵家から騎士家の長女なのが普通だ。

 それを、准男爵家とは言え、自家家臣の娘を迎えると言うのだ。

 名誉なはずなのだが、今回は嫌がらせであることが明白だった。

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