第14話

 ルアン皇太子とイーハ王は、皇都を去った。

 またも二週間昏倒したルアン皇太子が意識を取り戻した時には、ルアン皇太子に逆らった親衛騎士が皇都を去っており、罰する事など出来なくなっていた。

 それどころか、今回の益獣暴走騒動が、ルアン皇太子とイーハ王の責任だと言う噂が、皇都の隅々にまで流れていた。


 イーハ王は苦虫を噛み潰す思いでいた。

 事実である以上、噂が消え去るのを待つしかない。

 ルアン皇太子が意識を取り戻したら騒ぎ出すので、噂が耳に入る前に皇都から連れ出すしかなかった。


 これ以上ルアン皇太子の評判が落ちれば、親衛騎士団・近衛騎士団・一般騎士団の殆どに疎まれているルアン皇太子の廃嫡問題が出てくる。

 オシーン皇子を廃嫡にさせた前例もあり、皇太子を廃嫡する敷居は低くなっている。

 コナン王以外の諸王と全大臣が一味に加わっているが、全騎士団が敵に回れば勝ち目が低くなる。


 これ以上ルアン皇太子に失態を起こさせるわけにはいかなかった。

 そこでイーハ王は、騎士団の懐柔に取り掛かるとともに、ルアン皇太子を王都から引き離す事にした。

 イーハ王には秘策があった。


 ルアン皇太子は、マカァ姫に恋をしていた。

 いや、恋と言うような上等な感情ではない。

 兄の婚約者だった者を奪うと言う、醜い欲望に取り付かれていた。

 武舞姫と皇国中で評判のマカァ姫を嬲り者にしたかった。


 イーハ王は、皇都を離れるのを拒むであろうルアン皇太子を、マカァ姫を襲うと言う話で皇都から引き離そうとした。

 その為には、一国一秒でも早く、自領から軍馬を呼び寄せなけれればならなかった。

 だが皇都から自領にまで駆けさせる軍馬も乗馬もいなかった。


 コナン王にだけは頭を下げたくなかったイーハ王は、味方の諸王や大臣を通して、軍馬や乗馬を逃がすことがなかった、騎士に伝令をさせることにした。

 騎士達はそのような任務は拒否したかったが、皇都から各王都への駅伝網の再生と言う、皇国の為の任務だと言われて、嫌々従うことになった。


 皇都周辺から徐々に再建された駅伝網を使って、イーハ王は味方の諸王・貴族・士族の領内にいる、軍馬と騎馬を大急ぎで集めた。

 昏倒から目覚めたルアン皇太子は、今自分達がどれほど民から悪しざまに罵られてるかも知らず、マカァ姫を嬲り者にする夢だけを見て、マカァ姫を追って騎馬隊を駆けさせるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る