第13話

「キアン!

 おのれという奴は、恥を知れ恥を」


「何を怒っておられるのです?

 父上。

 イーの奴が私に楯突いたので、少々思い知らせてやっただけではないですか。

 主従の立場を弁えさせてやっただけですよ」


「この、馬鹿者が!

 ドゥリスコル家が武門の家柄だと知っておるだろうが!

 これほどの恥辱を受けて、イーの奴が黙っていると思っているのか。

 一族一門引き連れて、この城に攻めてくるぞ。

 おのれと腰巾着が、イーに勝てると思っているのか?!

 慮外者が!」


「父上!

 どういたしましょうか?!

 どうか、どうか、御助け下さい!

 父上様!」


「こうなれば仕方がない。

 先手を打つぞ!

 イーを上意討ちする。

 お前が兵を率いて皆殺しにしてこい。

 イーを先に殺しておけば、親類縁者も泣き寝入りするだろう」


「そんなぁ、父上。

 誰か他の者にやらせてください。

 私には無理です」


「黙れ!

 ここでお前が武力を示さねば、ドゥリスコル家の親類縁者が黙らんぞ。

 圧倒的な力を見せねば、奴らは必ずお前の命を狙う。

 お前に将来はない!

 馬鹿でも子は可愛い。

 お前を助けるには、もはやそれしか道はない」


 キアン・オハラは恐々ドゥリスコル家を襲撃した。

 城内にいた兵士を全て総動員して、奇襲を仕掛けた。

 実際に指揮を執ったのは古参の兵士だが、キアン・オハラと太鼓持ち家臣も恐々最後尾をついて行った。


 ドゥリスコル家は陪臣とは言え准男爵家である。

 領地には二〇〇〇人くらいの領民が住み、正規の兵士だけでも三〇人はいる。

 むりやり領民を動員すれば、五〇〇人くらいは兵士に仕立てる事も可能だ。

 だが、主君である子爵家の城下にある館には、家族とわずかな使用人しかいない。


 そこを完全武装の子爵家兵一五〇が襲い掛かったのだ。

 いかに武勇のイー・ドゥリスコルも、衆寡敵せず、奮戦虚しく討ち取られてしまった。

 それでも、鎧も着込まず、槍もなく、腰に差していた剣一振りで、完全武装の子爵家兵士を八人絶命させ、二一人に重軽傷を与えるほどの戦いを見せた。


 だが、その後が無残であった。

 イー・ドゥリスコルの妻と幼い子供達が捕まったのだが、キアン・オハラと腰巾着達に嬲り者にされたのだ。

 姉に引き続き、恥辱に塗れた地獄を見せられた。


 古参兵士達は苦々しく思いながらも、若殿と腰巾着達のやる事には逆らえなかった。

 だから噂を流した。

 イー・ドゥリスコルが若殿の策略に嵌り、無実の罪で殺されたと。

 同時に、妻女と子供達が士族では絶対にありえない、屈辱的な扱いを受けたと言う噂を流した。


 これが思わぬ効果を生んだ。

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