第16話
マカァ姫が武舞姫と皇国中で評判になるまでは、皇国の女性の評価は、小柄でおしとやかである事が優先された。
大柄で武芸を嗜むことは、女性として評価されないどころか、ブスだとか御転婆だとか言われて、陰口悪口の対象だった。
ベイタ・ドゥリスコルは、その心の優しさに反して、大女だった。
顔も、この時代の皇国基準ではブスだった。
その事を、誰よりも気にしていたのはベイタだった。
だから家の奥に引きこもっていた。
どうしても表に出る必要がある時も、膝と背を屈め、出来るだけ背を低く見せようとしていた。
だがそれが、ベイタの見た目を更に悪くしていた。
オハラ子爵家内では、ベイタ・ドゥリスコルが醜娘であると広まっていた。
なのに、側室に上がれと言うのだ。
晒し者にする心算なのは明白だった。
父親の諫言に対する意趣返しだった。
だが、忠臣である事を誇りにしているイー・ドゥリスには、主命に叛いて断る事など出来なかった。
ベイタ・ドゥリスコルは覚悟を決めた。
晒し者にされ、恥をかかされるのを覚悟で、父親の誇りを護ることにした。
相当の覚悟を持って、主君の城に上がった。
だが、オハラ子爵家の若君キアン・オハラの下劣さは想像を絶していた。
覚悟を決めたベイタが若殿の寝室に入ったら、その中には若殿に阿諛追従する家臣達が十数人もいたのだ。
とっさに危険と判断したベイタは、逃げようとした。
だが、その時は武芸の稽古をしていなかったベイタには、体格に見合った力さえなかった。
その後は地獄だった。
「ブスが!
抱いてもらえるだけありがたいと思え!」
「お前を抱くなど、熊や大豚を抱いているのと同じだ。
臭くて臭くてかなわんが、若様の命だから、仕方なく抱いているのだ。
有難く思え!」
「おい、一対一ではつまらんぞ。
三人掛でやれ、三人掛で」
「はい。
おい、二人入ってこい」
ベイタは自害したかった。
舌を噛み切って死にたかった。
だがそれも許されなかった。
「おい。
死ぬなよ、豚。
御前が死ねば、次には妹と弟を呼び出すからな」
キアン・オハラの下劣さは、人間とは思えないほど酷かった。
いや、人間だからこそ、これほど下劣になれるとも言えた。
ベイタの地獄は三日三晩続いた。
ベイタの父イー・ドゥリスも母親も、娘が晒し者にされ悔しく哀しい思いをしているとは思っていたが、生き地獄の中にいるとは思ってみなかった。
善良な人間には、キアン・オハラのような下劣な人間がどれほど酷い事をやってのけるのか、想像する事も出来ないのだ。
だが、馬鹿は考えられないくらい馬鹿で、思わぬところから話が漏れた。
いや、自慢して吹聴したのだ。
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