第10話
「バビエカ!
大人しくしろ!
余の命が聞けんと申すか!
余の命を聞かぬと言うのなら、叩き切るぞ!」
「おやめください、殿下!
馬を御せずに斬るなど、騎士には恥以外の何物でもありませんぞ!
仕えるべき兄皇太子を追い落とした不忠。
孝行を尽くすべき皇帝陛下を脅した不孝に加え、騎士としての矜持まで御捨てになるのか!」
「なにぃぃぃ!
余を不忠不孝と申すか!
オシーンは、皇帝になるだけの力がないから、諸王に叛かれたのだ!
余の所為ではないわ!」
「皇帝陛下と皇太子に叛いた臣下に担がれる恥知らず!
皇国の民は殿下を蔑んでおりますぞ!
ここで馬を斬り捨てれば、恥の上塗りですぞ!」
「おのれ。
おのれ。
おのれ。
もう許さん。
そこに直れ。
叩き斬ってくれるわ!」
「ヒィヒィヒィィィン」
皇宮内にある厩で、皇家御召馬と親衛騎士団用の軍馬が、皇都内で暴れるギャラハー馬の嘶きを聞いて、自分達も合流しようと暴れ出した。
皇宮内で我が物顔に振舞っていたルアン第二皇子は、自分の愛馬を抑えようとしたが、徳のないルアンに従うギャラハー馬ではなかった。
元々バビエカはオシーン第一皇子の軍馬だった。
オシーンを追い落としたルアンに、賢く忠誠心の強いギャラハー馬が従うはずがないのだ。
ずっとバビエカに跨ることが出来なかったルアンの堪忍袋の緒が切れて、バビエカを斬り捨てようとしたのだ。
だがその場にいた親衛隊の騎士が、口を極めてルアン第二皇子を罵った。
親衛騎士のほぼ全員が、オシーン第一皇子を敬愛していたからだ。
厳しい訓練でも、実戦を想定した魔境での狩りでも、オシーン第一皇子は全員を護る気概で聖魔法を使って下さっていた。
その慈愛は、近衛騎士団であろうと一般騎士団であろうと変わらなかった。
騎乗資格のない徒士団や、小者や陪臣に対しても、分け隔てなく聖魔法を使って下さっていた。
そのような兄を追い落としたルアンに、心から従う騎士や徒士は極少数だった。
従う者は、ルアンやイーハ王に阿諛追従する恥知らずだけだった。
だから、オシーン第一皇子が愛し可愛がっていたバビエカを、ルアンが斬ろうとするのを黙ってみていられない、親衛騎士が次々と現れたのだ。
怒り狂ったルアン第二皇子は、本気で親衛騎士を斬ると決めた。
だが相手は一騎当千の親衛騎士だ。
剣では必勝を期せない。
得意な長大なメイスに持ち替えようとした。
そこをバビエカは見逃さなかった。
防御用の馬防具を身に付けていないバビエカは、ルアンの隙を待っていた。
ルアンが親衛騎士との口論に気を逸らしている間に、ルアンに尻を向けていた。
ルアンが剣からメイスに武器を持ち換えた隙に、両後ろ脚で渾身の蹴りを放ったのだ。
厳重強固な城の門扉を一撃で破壊するギャラハー馬の蹴りだ。
まともに受けたら即死は免れない。
だがルアンも勇猛を謳われた大兵剛力の戦士だ。
とっさにメイスを顔の前に動かし、メイスで蹴りを受けた瞬間に後方に飛んで勢いを逃がそうとした。
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