第11話

「陛下!

 今回の件は、全てギャラハー家の陰謀でございます。

 ギャラハー家の討伐許可を頂きたい!」


「イーハ。

 御前もギャラハー家の陰謀だと言うのだな。

 御前の責任で、討伐を奏上するのだな」


 皇帝ブライアン・アイルは、現皇太子ルアンを無視して、ルアンを操るオキャラン王に鋭く下問した。


「滅相もございません。

 今回の件は馬が勝手に暴走しただけで、ギャラハー王家に何の咎もございません。

 皇太子殿下にも、何度もそう申しあげたのでございますが、聞き入れて頂けないのでございます」


「陛下!

 イーハが臆病風に吹かれようと、余は引き下がりませんぞ。

 皇国最強などと申しても、一王家ではありませんか。

 皇国軍と諸王の連合軍に勝てる訳がない」


「愚か者!

 馬一匹にも勝てず。

 醜い傷を顔に残した恥知らずが!

 貴様の凶行が、皇家の栄光に泥を塗ったのだ。

 虚け者が!」


 皇帝の言う通り、ルアンの顔には大きな傷が残っていた。

 バビエカの蹴りは何とかメイスで受けたが、そのメイスの柄の部分が顔にめり込んだのだ。

 鼻骨が粉砕され、鼻が大きく曲がってしまった。

 更に額から顎にかけて、メイスの柄がめり込んだ後が青黒く残っているのだ。


 皇国の名医が何人も見たが、強く頭を打って二週間昏倒しており、命を助けることを優先したため、もう手の施しようがなかった。

 昏倒から気が付いて、バビエカ達を弓で射殺そうとしたが、既に全ての馬が皇都から逃げた後だった。


 皇都が騎獣と駄獣と輓獣の暴走で大混乱した時、イーハ王は独断で射殺そうとした。

 それを聞いた皇国の騎士の一部が、独断で皇都の城門を開き、騎獣と駄獣と輓獣を皇都から逃がしたのだ。

 いかにギャラハー馬でも、鋼鉄と鉄格子で造られた、皇都の大門扉を蹴破ることは出来なかったからだ。


 イーハ王は独断で城門を開けた騎士達を罰しようとしたが、その前に皇帝が先手を打った。

 騎士達に、皇都の民を護った護国の騎士として感状を下賜したのだ。

 皇帝陛下が感状を下した騎士を、臣下の王が罰する事など出来ない。


 しかも皇帝陛下が今回の軍馬の叛乱を調べさせた事で、自分がむりやり推挙した准男爵の犯罪が露見してしまった。

 皇帝陛下の手の者に捕まる前に私兵を派遣して、一族皆殺しにして裏金の流れは絶ったが、領民まで殺す事は出来なかった。


 領民まで殺したら、皇帝陛下の逆鱗に触れるのは確実だった。

 コナン王も黙ってはいないだろう。

 皇国軍にも嫌われてしまっている。

 ルアン皇太子を表に立てて逃れようとしていたのに、事もあろうにルアン皇太子が、乱心したとしか思えない事を言いだした。


 個人の腕力と武力だけは衆を圧しているので、イーハ王はむりやり一緒に皇宮に連れてこられてしまったのだ

 こうなると、皇帝陛下と皇太子を噛み合わせて、自分の罪をうやむやにしようとしたのだが、オシーン第一皇子を廃嫡に追い込まれた皇帝陛下は、人が変わったように肝が据わっていた。

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