第8話

「大丈夫かい」

「ウェェェェン」

「男の子なら泣くんじゃないぞ」

「ウェェェェン」


 マカァ姫は泣き止まない子供に難渋していた。

 稽古も魔獣との実戦も、戦いには負け知らずのマカァ姫ではあったが、泣く子には敵わなかった。

 こういう場合には、戦闘侍女の出番だった。


 子供好きする戦闘侍女が、上手く子供をあやし、色々と話しを聞き出した。

 それによると、元は立派な貴族が調教役を務めていたが、オキャラン王家の横槍で、調教技術の劣る、准男爵のブラウン・クロウリーが調教役に任命されていた。


 だが、調教技術も馬術も劣るブラウン・クロウリーでは、賢く勇猛なギャラハー馬が言う事を聞くはずもなく、皇家に調教の済んだギャラハー馬を納入する事など出来なかった。

 劣るとは言っても、オキャラン王家が面目にかけて任命した調教役である。

 全く能力がない訳ではなかった。


 だが皇家牧場の主であるギャラハー馬がブラウンを嫌えば、他の馬も言う事を聞かなくなる。

 それからは悪循環で、皇家御召馬のギャラハー馬を傷つけることは出来ないが、他の馬なら大丈夫と、鞭や棒を使って言う事を聞かそうとした。

 だがそれがなおさらギャラハー馬に嫌われ、今では自分が持ち込んだ馬以外言う事を聞かせられなくなっていた。。


 馬を皇家に納入出来なくなったブラウン准男爵は、賄賂を使ってでも今の地位にしがみつこうとした。

 だがその為には、莫大な裏金が必要になる。

 牧場を運営する為に預かっている領地の年貢では、そのような裏金を作る事は不可能だった。


 そこでブラウン准男爵は、領地の民から不当な年貢を取りたてた。

 通常の倍の年貢に加え、労役として牧場の牧草刈りや馬の世話まで命じた。

 自分達が厩舎に入ると馬が暴れるので、領民にさせるまでに落ちぶれたのだ。

 そればかりか、ギャラハー馬を引いて、楯突く領民に脅しをかけた。


 皇家の御用馬に傷をつけたら、九族に皆殺しだと脅し、家財道具全てを奪うようになっていた。

 主人がそのように傲慢に振る舞えば、家臣もそれに倣う。

 准男爵は士族である。

 決して貴族ではない。


 士族家の家臣は徒士までと言う決まりがある。

 准男爵に家族が騎士の装備を身に付けるのは許されれるが、家臣が騎士の装備を身に付ける事は絶対に許されない。

 なのに、家臣の一人が騎士の装備を身に付けて、領民を脅して回っていた。


 クロウリー准男爵家の家臣では、一番馬術と調教術が上手い男だったが、騎士の装備を身に付ける資格はなかった。

 その天罰と言うべきか、ギャラハー馬の蹴りを受けて死んでしまった。


 当然だろう。

 クロウリー准男爵家の威光を笠に、領民の娘を手籠めにしていたのだから。

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