2章
第7話
「姫様。
この辺りが皇家の軍馬を育成する牧場でございます」
「そうなの。
ああ、あの馬がそうなのね。
でも随分小さな馬ね」
「仕方ございません。
当家のような雄大な軍馬は、国元の領地にしかおりません。
他家は勿論、皇家でも手に入れる事は不可能でございます」
「皇家から強く言われても、馬は譲らないのね」
「当家の強さの一端は、他家を圧する雄大な体格の軍馬にあります。
いくら皇家の願いでも、種馬や牝馬を譲るわけにはいきません。
ただ戦にどうしても必要な馬だけは、去勢して売却しております」
「そうなの。
ああ、だから皇都には去勢した馬しかいないのね」
「はい。
皇家は勿論、諸王家も当家の軍馬を盗もうとしております。
皇都に牝馬や去勢前の馬を連れてくるわけにはいきません」
皇都を出たマカァ姫一行は、雄大な馬格を誇るギャラハー馬を駆って、大魔窟に向かっていた。
その途中で、皇家の牧場を通過したのだが、その馬の体高は一七〇センチ程度で、体重も一〇〇〇キログラム程度だつた。
だがギャラハー馬はその程度ではなかった。
体高は最低でも二一〇センチを超え、体重も一六〇〇キログラム以上を誇っていた。
頭もよく、騎士の言う事をよく理解する上、戦となったら騎士と一緒に戦う気概もある。
例え相手が巨大な戦象であろうと、怯むことなく向かって行くのだ。
「どけ!
どけ!
どきやがれ!
皇家の御馬様が通るぞ!」
マカァ姫一行の前を、ギャラハー馬を引く一団が現れた。
だか彼らはギャラハー馬を心服させることが出来ないようで、普通の軍馬に跨り、ギャラハー馬の手綱を引くだけだった。
それでも彼らは、皇家御召馬のギャラハー馬の威光を笠に、街道を我が物顔で駆けるので、逃げ遅れた小さな子供を馬蹄にかけそうになった。
「「「「「危ない」」」」」
マカァ姫一行は、子供を助けたいと思ったが、残念ながら位置が遠すぎた。
礫を投げるにしても、槍を投擲するにしても、届くまでに時間が掛かる。
狼藉者を成敗することは出来ても、子供を助けるのは間に合わない。
とっさに治癒魔法の使い手が、怪我の後に魔法を使う次善の策をとろうとした。
「ヒィヒィヒィィィン」
なんとその時。
引かれていたギャラハー馬が蹴りを放った。
先を行く並の軍馬の尻を蹴り、跳ね飛ばしたのだ。
馬は数メートル横に跳ね飛び、子供を馬蹄にかけることなく、転倒した。
偉そうに騎乗していた調教師は、無様に落馬してしまった。
「この腐れ馬が!」
先を進んでいた調教師は昏倒していたが、後ろをついていたフルアーマープレートを装備した騎士が、ギャラハー馬を鞭打とうとした。
しかし逆にギャラハー馬の後ろ蹴りを喰らい、鎧ごと粉砕されて絶命した。
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