第5話
「姫様。
噂は本当のようでございます」
「御父上は、皇太子殿下の廃嫡と私との婚約破棄を、認められたのですか」
「残念ながら、皇帝陛下が御認めになられました。
国王殿下は、皇帝陛下に忠誠を誓っておられます。
皇帝陛下が御認めになられた以上、内心はどうあろうと、従われると思われます」
「私は不承知よ。
廃嫡は勿論、婚約破棄も認めないわよ」
「分かっております」
「助けに行くわよ。
用意しなさい」
「危険な大魔境の更に奥にある、この大陸で最も危険な魔洞窟で、奈落ダンジョンとも言われる、大魔洞窟に幽閉された、オシーン殿下を助けに行くと申されるのですか」
「そうよ。
いちいち大袈裟ね。
駄目なの?」
「皇帝陛下を脅迫し、オシーン殿下を廃嫡させた、諸王を敵に回すかもしれません。
諸王や第二王子の手の者が襲ってくるかもしれません。
それでも、オシーン殿下を助けに行くと申されるのですか」
「そうよ。
いちいち説明しなくても分かっているわ。
それともエファは怖いの?」
「誰に言っておられるのですか。
楽しみで武者震いします」
「では、一緒に行ってくれるのね」
「はい。
私だけでなく、全ての戦闘侍女が、御供する覚悟でございます」
「感謝するわ」
アイル皇国は千年の歴史を誇る大帝国だった。
多くの分家王家や属国王家が臣従する大帝国だった。
だが千年の歴史は、皇国を腐敗させ弱体化させた。
近年では諸王の力が皇家を圧し、政を壟断するほどだった。
それは遂に皇位継承権に介入するほどとなり、聖者と評される英明な第一皇子オシーンを皇太子から廃し、武芸は衆を圧するものの、思慮の足りない第二皇子ルアンを皇太子に就けるほどになっていた。
いや、それだけではなく、諸王の中でも最も皇帝に信頼が厚かった、ギャラハー王家の長女マカァとオシーンの婚約まで破棄させたのだ。
まあ、皇太子を廃嫡され、大魔境にさらに奥にある大魔洞窟に幽閉された身で、属国とは言え一国の王女と婚姻は結べない。
だがそのような常識は、マカァ姫には通用しなかった。
皇国一の武闘派王国の長女マカァ姫は、自ら槍や剣を取り、馬を駆る武断の姫だ。
侍女全てに武装させ、騎士団に匹敵する嬢子団を設立するほどだった。
その武勇と美しい姿は、武舞姫と皇国中で評されていた。
武舞姫マカァは皇国の決定に従わず、大魔窟にいるオシーン皇子を助ける決断をした。
オシーン皇子が共にギャラハー王家に来てくれないのなら、共に大魔窟で暮らす覚悟までしていた。
マカァ姫に仕える戦闘侍女全てが、姫と行動を共にする覚悟だった。
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