第4話

 アイル皇国は千年の歴史を誇る大帝国だった。

 多くの分家王家や属国王家が臣従する大帝国だった。

 だが千年の歴史は、皇国を腐敗させ弱体化させた。

 近年では諸王の力が皇家を圧し、政を壟断するほどだった。


 一時は名声を堕としたイーハ王だったが、得意の権謀術数と、皇家とギャラハー王家が力を持つ事を嫌った、他の王家、大貴族、大臣、中堅貴族まで味方に引き入れるのに成功した。

 その上で、オシーン皇太子を脅迫した。

 皇太子の地位から降りないと、皇帝陛下の身が危険だと。


 自分がやると言う言質は与えず、大貴族が陛下を狙っていると言う。

 内乱の危険があると諫言の形をとって言うのだ。

 マカァ姫がルアン皇子に狙われるともいう。

 マカァ姫に懸想したルアン皇子が、何時マカァ姫を襲うかもしれないと言うのだ。


 マカァ姫を護るためには、皇太子の地位から降り、婚約を解消して、大魔窟に隠棲する方がいいと諫言するのだ。

 そうすればマカァ姫は本国に帰るから安全だし、皇帝陛下も天寿を全う出来ると言うのだ。

 そしてなりより、マカァ姫を取り合う内乱が起こらないとまで言うのだ。


 早い話が取引だった。

 オシーンの命まではとらない。

 皇帝陛下を殺さない

 マカァ姫を襲わない。

 内乱は起こさない。

 その代わり皇帝の地位をルアン皇子に譲れと言うのだ。


 ばかばかしい話だが、権力闘争をマカァ姫の奪い合いと言う、下世話な争いにすり替えて、自分達の謀叛を隠そうとするのだ。

 その方が民には面白おかしく伝わり、皇位継承と権力闘争と言う、自分達の悪事を史書から消せるとか考えたのだ。


 オシーン皇太子は熟考した。

 思いつく限りの策を考えた。

 皇帝陛下は勿論、コナン王とマカァ姫がどう動くかも考えた。

 長年かけて育てた側近にも相談した。


 側近の中には、戦えば勝てると断言した者もいた。

 親衛騎士団・近衛騎士団・一般騎士団の七割と、コナン王率いるギャラハー騎士団が味方すれば、必ず勝てる断言した。

 オシーン皇太子も勝てるだろうと考えた。

 だがその時は、多くの民が巻き込まれて死ぬとも考えた。


 側近の中には、暗殺すればいいと言う者もいた。

 確かに可能かもしれないと、オシーン皇太子も考えた。

 だが同時に、それでは今迄と同じだとも考えた。

 皇帝の地位を暗殺と言う安易で暗い方法で手に入れたら、誰もが何時暗殺されるかもしれないと言う疑いを持つ。


 それではコナン王とギャラハー王家が離れるともかんがえた。

 だから、一番民の犠牲が少なく、正史に堂々と書き記せる方法を取ることにした。

 オシーン皇太子は、父である皇帝陛下と、義父となるコナン王を信じた。

 誰よりも、妻となるマカァ姫を信じて皇太子の地位を降り、大魔窟に赴いた。

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