ダサい×格好いい



 子供の頃から、身長が女子はおろか、大体の男子よりも高かった。

 そのせいで、女の子扱いをされたことがほとんどない。


 さらには一部の女子に、王子様だと崇められて、黄色い声援をあびせられる方が多い。


 しかし昔からのことだから、その扱いには慣れてしまっていた。

 胸の奥が少しだけ痛むのを、気が付かないふりをして。



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 その男の子は、いつも教室の隅にいた。

 本を読んでいるところばかりを見かけ、誰かと楽しく話している姿が想像つかない。


 前髪は目を覆い隠し、分厚すぎる眼鏡。

 真面目で大人しい。

 それが周囲の、彼に対する印象だった。


 かくいう私も、接点が全く無いから、同じような印象を抱いていた。


 それも今日までだ。



「東雲君って、可愛い絵を書くんだね」


 本当にたまたま、彼の席の近くを通った時に、机の上のものが視界に入ってしまった。

 それはスケッチブックで、何のキャラかは分からないけど、綺麗な女の子の絵が描かれていた。


 私は感動して、盗み見したことも忘れて話しかけてしまう。


「えっ? はっ?」


 話しかけられた彼は、驚いて慌ててスケッチブックを隠してしまった。


「あ、ごめん……見る気はなかったんだけど、視界に入っちゃって……すごく可愛い絵だったから」


 可愛い絵が見られなくなり、残念に思いながら謝罪をした。

 勝手に見たのは私が悪いから、そんな反応をされるのは当たり前のことだ。


 私は自分の行動を恥じて、彼の机から離れようとした。


「あっ、待って」


 盗み見をした私の顔を見るのも嫌だろうと、そう思ったからなのだけど。

 彼が話しかけてきたので、ゆっくりと立ち止まる。


「えっと、どうしたの?」


「あ、あのさ……絵が可愛いって言ってくれたのは、お世辞とか……?」


「お世辞じゃないよ。すっごくすっごく綺麗だと思った」


 彼の声は、とても低くて自信がなさそうだった。

 私の答え次第で、もう絵を描いてくれなさそうな、そんな気配を感じた。

 だから私は、いっそ大げさなぐらいに、彼の絵を褒めた。


「あ、ありがと……」


 彼は、私から視線を逸らして、顔を真っ赤にさせている。

 表情は読み取れないけど、なんだか可愛いと思ってしまった。


 もしかして、これが母性本能というものか。

 いや、絶対に違う。


 私は自分の感情がおかしくなったのを、なんとか軌道修正する。


「他にもどんな絵を描いているの? 見てみたいな」


 そして気持ちを切り替えるように、話題を変えた。

 しかし彼は、スケッチブックを出してくれない。


「ほ、他の絵は今はちょっと……あ、明日になら……」


「えっと、そっか。ごめんね、図々しく頼んじゃって。ほら、私って可愛いタイプじゃないから。そういうのを見ていると、周りに似合わないって言われちゃうんだよね。だから誰もいない今に、見たいと思っただけだから……迷惑だったよね。ごめん」


 他の絵も見てみたかったけど、しょうがない。

 残念に思いながら、私は強引に行くのは悪いと、眉を下げた。


「ち、違う。迷惑じゃなくて……あー、もう!」


 彼は大きな声で唸ると、スケッチブックを取り出して広げた。


「これ! 君を描いたの!」


 そこにあったのは、また可愛らしい絵だった。

 ショートカットなのは一緒だけど、どう見ても私には似ても似つかない。

 私は混乱して、戸惑った声しか出せない。


「え。私は、こんなに可愛くない、よ……?」


「か、可愛いよ。ぼ、僕は見たままを描いただけだから」


「……ほ、ほへ?」


 真っ赤になっている彼は、嘘をついているようには見えない。

 私もそれをつられて、顔を真っ赤にさせる。


 彼のスケッチブックの中の私は、本当に可愛く見えた。

 もし、彼に私がこう見えているのだとしたら。


 初めて、私を女の子扱いしてくれた存在なのかもしれない。


「あ、あのさ……」


「な、何」


「もう一枚……私の絵を描いてくれないかな」


 この気持ちをどう判断するのか、それはもう一枚描いてもらってから考えよう。


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