怖がり×幽霊ホイホイ体質
俺のことを、よく知る人には必ず聞かれる。
何故、彼女と付き合うこととなったのかと。
確かに俺の性格と、彼女の体質は相性が悪い。
とても悪すぎる。
しかし、俺は彼女のことを好きになったのだ。
体質とか、そういうのは関係ない。
質問には、そう答えるようにしているのだが、たまに考えてしまう時がある。
俺の性格がもっと勇敢であれば、彼女の体質が無ければ。
もっともっと、俺は彼女のことを好きになれるのではないかと。
まあ、今のところは、土台無理な話なのだけど。
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「れれれれ礼子⁉ その、後ろにいる男は誰なんだ⁉」
「えっ……あー、えっと、ごめんなさい。また、つれてきちゃったみたい……」
「そそそそそその人、絶対死んでいるよな? だって出ちゃ駄目なもの出ているもんな? どこで連れて来たんだ?」
「うーんと、たぶん事故現場の近くを通ったから、その時だと思う。ごめんね。お話して、何とかかえってもらってみる」
俺は彼女の姿を見ると、大きな声で叫んでしまった。
教室にいたクラスメイト達は、その声に驚いて一瞬こちらを見たけど、俺が叫んでいると分かると、いつものことだと視線をそらした。
この状況が毎日のように続いているので、普通は慣れるはずがないのに、慣れてしまっている。
幽霊を背後に連れてくる彼女と、それに驚き叫ぶ俺。
こんなことに慣れてしまうぐらい、日常的に起こっている。
しかし俺は、いつまで経っても慣れることは無い。
いや、幽霊に慣れるなんて、どう頑張っても無理である。
無理なのに、彼女の幽霊ホイホイ体質は、待ってはくれない。
彼女は幽霊が見える。
そして話も出来るらしい。
そのせいもあって、救いを求めた霊が彼女に憑りついてしまうのだ。
俺は幽霊が見える。
話は出来ないし、触れもしない。
だから憑りつかれることは無い。
無いのだが、この世の中で幽霊が一番苦手なので、見るのも嫌だった。
そうなると彼女の体質は、俺にとって最悪のものでしかない。
昨日は、血まみれの女の人だった。
彼氏に振られたショックで、ビルの屋上から飛び降りてしまったらしい。
幸い、彼女が恋愛相談のようなことを数分すれば、ためていたものを吐き出した彼女は、満足して成仏した。
俺がそういうのが苦手だから、極力見せないようにしてくれているけど、背後から静かについてこられると分からないらしい。
そのせいで、教室で朝に会う時が、一番俺にとって危険なものになる。
いや、それ以外にも彼女に憑りついた幽霊を見てしまうことは、たくさんある。
俺と彼女は付き合っているのだから、無理もない話なのだ。
付き合ってすぐに彼女の部屋に行った時、下心ありでドキドキしていた。
何か関係を進展させるようなことが起きるかもしれないと期待していたのだが、俺が目にしたのは、部屋の中で走り回る子供達の姿だった。
その時の衝撃というのは凄まじくて、恥ずかしいことに彼女の前で気絶してしまった。
次に目を覚ましたのは、彼女のベッドの上で。
心配そうに顔を覗き込む彼女と俺に、甘い空間なんてあるわけもなかった。
周りに未だに子供が走り回っていたのだから、当たり前の話だ。
「ごめんねえ。大丈夫だったあ? この子達、ただ遊びたがっていただけだから、好きなように遊ばせていたんだけど。桃君が嫌いなのを、忘れていたの。本当にごめんなさい……」
「……大丈夫だよ……」
バタバタと走る音が聞こえている中、涙目の彼女を許さないわけがなかった。
初めてのドキドキお宅訪問は、こんな形で残念な感じで終わったのだ。
それでも彼女との仲は、深まったのだからプラスマイナスゼロか。
そういうわけで、彼女との交際は順調だけど、たまに幽霊の存在が邪魔をしてくる。
向こうに邪魔をする気は無いとしても、いるだけで駄目なのだ。
俺は多くの割合で気絶をしてしまい、彼女の前でいい所を見せられていない。
彼女は気にしていないけど、男してのプライド的に、このままじゃ格好悪すぎると言っている。
格好いいところを見せて、惚れ直してもらう。
いつも、そう考えてタイミングを窺っていたけど、上手くいったためしはない。
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こうなったら、もう神頼みをするしかない。
俺は何も上手くいかなくて、神社に来ていた。
ここの神社は、古いし小さいし、ザ地元という感じがするものだけど、妙に参拝客が多い。
きっと何かしらのご利益があるのだろうと、試しに来てみたのだが。
「本当に大丈夫か? ここ」
心配になるぐらいに、古びていた。
俺は顔をひきつらせながら、神社の中で呟く。
こんなところで、ご利益を受けられるのか。
来なければ良かったのかもしれないと、すでに後悔し始めていた。
しかしせっかく来たのだから、拝むだけ拝んでおこう。
俺はそう考えて、さあ歩こうと足を上げた。
「ひいいっ⁉」
その前に、肩を叩かれ悲鳴を口から出してしまう。
「わっ。ごめんねえ」
聞き覚えのある声。
それは彼女のものだった。
また驚いてしまったことに恥ずかしさを覚えながら、ゆっくりと振り向いた。
「ひ、ひえっ」
「あれっ? どうしたの? 大丈夫?」
そして、情けない声を出して意識が遠くなった。
こうなってしまったのも、無理はない。
振り返った先の、彼女の後ろには、神々しい何かがいた。
幽霊とは違い血まみれでは無かったが、人外であることには変わりない。
絶対に古臭いとか思ったから、わざと驚かしに来たのだろう。
真っ暗になる視界の中、俺は必死に祈った。
こんな体質でも、彼女のことは好きでいたいです。
ずっと、一緒にいられますように。
ピースをしてくれたので、きっと聞き入れてもらえたのだろう。
ついでに幽霊を見えないようにしてほしいと思ったが、時間が足りなかった。
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