第3話前へ進むための1日
『ピンコン』と学校が終わり、帰りの支度をしているとLINEが来た。お父さんからだ。『弥生、今すぐ帰ってきなさい。仕事はいいから。』は?仕事はいいからって何様のつもりよ。でも、、、こんな風に連絡してくるの、珍しいからもしかしたら何かあったのかもしれない。いや、まさかね。私は早歩きをして家に帰った・・・。
「ただいま。お父さん、何。杉野も、どうしたの。」
杉野は私とお父さんの使用人。
「お客様がいらっしゃっています。」
客?誰だろう。
「わかった。」
客間に行くと・・・。
「れ、い、さ、ま?」
そこにいたのは紛れもなく玲様だった。何で、家に玲様がいるの。
「アヤ、驚きすぎ。」
いやいやいや、驚くでしょ。私の主が私の家に来て驚かずにいられますかっていう話よ。
「どうされましたか」
「今日からアヤの使用人としてここで働こうかと思って。」
・・・。はい?い、今なんて?玲様は果たして何を考えているのか私には理解しがたいのだが。え、私の頭がおかしいの?そ、そんなことないよね。
「…ダメ?」
だめに決まってるでしょ。玲様は私の主なのだから。
「お断りします。あなた様は紫藤家の御当主であることをお忘れですか。ご自身のお立場をお考え下さい。」
わあ、言い過ぎたかなあ。玲様がすごい面くらったような顔をしている。ついでに、お父さんと杉野も。普段は自分で何もかもやって、なんでも首を縦に振っている優しいキャラの私が首を横に振った上にこんなにも自分の意見を言うなんてめったにないもんね。
「ダメ?アヤの御父上にはもう許可は取ってあるけど。」
何でかな。何でお父さんは許可を出しちゃうかな。
「・・・お父さん。もう嫌い。」
少しだけ、一人になりたかった。何でもかんでも決めてしまうお父さんと、それを止めない私の使用人と、何を考えているかわからない私の主。そんな人たちと一緒にいたくなかった。私はスマホを置いて、家を出た。
「お嬢様、どちらに?」
杉野が追いかけてきた。
「少し、出るだけ。夕飯はいらないから。」
これは、久しぶりに私が言ったわがまま。
「かしこまりました。お気を付けて。」
「うん。ありがと。」
行く場所はもう決まっていた。私にも行く場所はある。
10分後・・・
「お母さん久しぶり。」
私が来たのはお母さんのお墓。お母さんは5年前に死んだ。それから私は何かがあるごとにここにきている。
「あのね、私の主がね、私の使用人になりたいって言ったの。私、同い年の使用人できるのって、ほら、華聯とのことがあったから、苦手じゃん?だから、少し強く言っちゃてさ。しかも、お父さんに、嫌いって言っちゃったんだよね。」
私って最低、、、。ここに来ると必ずそう思ってしまう。華聯は私の元・使用人で私たちは親友だった。華聯のお父さんが私のお父さんの使用人だったからその関係で私の使用人になった。『弥生様、明日も私と一緒に遊んでくださいますか。』夜になると華聯は毎日そう言った。私はそれがうれしくて、『当たり前でしょ。』と答えてた。まあ、本当に華聯の事は好きだったし。でも、学校でも私に敬語を使っていた華聯はクラスメイトにいじめられていた(何で華聯がいじめられたいたのかはわからない)。ついでに私もいじめられたいたのだけど、華聯が私を守ってくれた。それから華聯は、自殺した。遺書には、『弥生様、今日も明日も私と遊んでいただきたかったです。これからも弥生様をお守りしたかったのに、私はもう限界を超えてしまいました。大変申し訳ございません。 杉野華聯』と書いてあった。私はその時泣きに泣いた。そのあとすぐにお母さんが死んじゃって、私の心には2つの大きな穴が開いてしまった。今は立ち直れたけど次に何かあったら多分私はもうだめだと思う。
私は夜までずっと居た。杉野が迎えに来てくれたのが多分23時だったと思う。「やはりここでしたか。」そう言っただけで、他に何も言わなかった。
「心配しました。こんなに遅くまで帰ってこないとは。」
「ごめん。迷惑かけて。」
「いいえ。迷惑ではありません。」
杉野の手は少し冷たくて震えていた。多分、華聯の事を思い出していたのだろう。華聯が自殺した日も今日みたいな寒い満月の日だったから。
「杉野、私はどうしたらいいのかな。玲様には華聯みたいな思いはしてほしくないんだよね。」
杉野が足を止めた。
「娘が死んでから、私もお嬢様も一歩も前には進めていません。前に進むためには玲様のお力が必要かもしれませんね。」
杉野は優しく笑った。今日は私が前へ進むための1日だった。前に進めるかはわからないけど玲様にお力を貸していただけるか相談してみよう。
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