日記二冊目

――ゆるく生きたい頃――

火の精霊が強い理由。

 どうも、精霊です。


 今日はね、苦手の克服をしてきたよ。できなかったけどね。

 まぁ、聞いてよ。


 テンタたちがね、温泉に行きたいって言うんだよ。俺も温泉は好きだから。ていうか水の精霊のもらって嬉しい貢ぎ物、1位は温泉だからね。

「人間の町に温泉に入りに行こう」って言ったんだよ。俺は。

 そしたらテンタたちはね、山奥の秘湯行きたいって言うんだよ。

 地の上位精霊のあいつに聞いたって言うんだよ。

 あのやろう、自分が行きたいからってテンタたち巻き込んだな。

 俺が行きたがらないこと知ってるから……。


 山奥の秘湯はたしかにあるよ。

 観光もできて、山歩きもできて、可愛い魔物たちとも触れあえて最高の立地だよ。

 でもね、経営者が火の精霊なんだよ!

 子供の頃にこっぴどくやられてから苦手なんだよなぁ。まぁ、あれは水龍が9割くらい悪かったんだけどね。

 あの時の火精霊の爺さん、まだ現役でいらっしゃるから……


 とは言っても、テンタたちに頼まれちゃ断れないよね。

 人間のお友だち一緒に連れて行くって言ってたし。

 温泉でキャッキャッされたい。

 水龍の悪ふざけで俺、体あるしね。

 触って遊べる水の精霊ですよ。


 まぁ、とにかく行ったんだよ。というより今そこにいるんだよね。

 火精霊の温泉郷。

 メンバーは俺とテンタ、セイコ、シャラク、キング、腐れ縁の地の上位精霊。あとパペットと、新しく地の精霊獣になった元剛腕ウサギ。あとテンタたちの人間のお友だちの厳つい兄ちゃんが3人。


 温泉郷というだけあってね、見る分には夢のような所だよ。

 山と山の間にポッと現れた温泉の湖。

 それを取り囲むように木造の店が並ぶ。宿泊施設に食事処、お土産屋に見晴台。

 店は花咲はなさきザルたちがやってるし、温泉の湖には温泉イルカが泳いでるしね。

 ちなみに花咲ザルは土を耕し土の中に暮らすサル。彼らが住む場所は緑が豊かになって美しい花が咲くから、花咲ザルね。

 温泉イルカはそのまんま、温泉に住むイルカ。ちょっと体が丸っこいけど可愛いよ。


 そんな俺を嘲笑う声。

 火精霊の長生き爺ちゃんだよ。

 この人ね、もう500歳を越えてるんだよ。精霊の寿命は500年って言われてるのに、508歳だよ。

 俺は298歳だから、いくつ違うんだ?

 とにかく元気でさ。

「おい、龍の倅! 久しぶりだなぁ。また喧嘩でもしに来たのか? 温泉玉子と一緒に茹でられたいのか?」

 ガハガハ笑うんだもんなぁ。嫌になるよ。もう300歳近いオッサンだってのになぁ。

 そんですぐバレたよ。

「お? なんだ、おめぇ……体があるじゃねぇか! 本当におめぇは飽きない奴だなぁ!」

 こんな感じだから来たくないんだよ……。


 火の精霊たちだいたいこんな性格のやつばっかりなんだよ。

 それに温泉と縁がある精霊って事で水でも消えないし、痛くも痒くもない。

 魔力は水と共にあり、だからね。


 でも皆すごく楽しそうだから良しとしよう。

 温泉でお泊まりなら、人間たちも少しは砕けてくれるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る