俺の子供時代は涙なくして語れない。

 どうも、精霊です。


 150年ほど逃げ続けた水龍と再会したからね、ちょっと昔話でもしようかなって事でさ。

 まぁ聞いてやってよ。


 清き水より生まれた水の精霊、俺。

 目の前には何かでかい龍がいるわけだ。

 生まれたばかりの俺は、そいつの鼻先くらいの大きさしかない。

 そんでね、そいつが言うんだよ。

「こんな海底で生まれるとは珍しい。退屈しているから育ててやろう」

 今ならいいよ、いいよ、ほっといて下さいって言うんだけどね。

 その時の俺はでっかい水龍に懐いちゃったんだよ。

 バカだよね。

 苦労の始まりだよ。


「水の精霊たるもの、龍と喧嘩できるようでなくてはな」

「そうなの!? 分かった!」

 ってなもんでね。

 空の上まで喧嘩を売りにいって酷い目に遭ったよ。

 しかし俺は律儀に報告しに帰るわけだ。

「負けちゃったよ……」

「そうか。では火の精霊から始めるとしよう。水の精霊たるもの、火の上位精霊には勝てなければな」

「そうなの!? 分かった!」

 ってね。

 あの頃は無知だったんだよ。

 地、水、火、風、木と精霊5種族の中で、火の精霊が一番強いなんて知らなかったんだよ。

 水の精霊は圧倒的に持久力があるんだけど、強さにおいては火の精霊に敵わない。

 だって水をぶっかけても消えないんだもん。火なのに。

 とにかく、勝負を仕掛けに行った俺は手酷く遊ばれた訳だよ。

 そんで水龍の所に報告に帰る。

 そんな事が何十年続いたかな……。

 俺はいつも傷だらけだったよ。でも、それが俺を強くしたんだろうけどね。

 水龍流の常識を叩き込まれて育った俺が、正しい知識を身に付けたのはかなり経ってからだった。


「水の精霊たるもの、人の扱う魔法くらい使いこなせんとな」

「そうなの!? 分かった!」

 って事で俺は人間の学舎で魔法を学んだんだけど、そこで初めて精霊とは! って話を聞いたんだ。

 もう目から鱗だよ。

 水の精霊は龍と喧嘩できなくていいって言うんだもんな。

 まぁそんな風にして得た常識や知識も、水龍に報告に行った時に書き換えられたんだけどさ。

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