扉の奥。
どうも、精霊です。
えぇ……ちょっと壁を壊しちゃって見晴らしがよくなったけど、なんとかゴーレムベアに勝ったぞ!
けど行きたくないんだよなぁ……この奥。
でっかいあの方が舌舐めずりしながら待ってるみたいでさぁ。
けどね、ここまで来て扉を開けずに帰ったら怒られるから開けたよ、扉。
思った通り海なんだよね、そこ。
二人に水の中でも息ができる魔法かけといて良かったよ。
そしたらね、やっぱりいたよ。
はい。水龍です。
「久しいな、百五十年ぶりか。お前が顔を見せずにそんなに経ったか」
はい、すみません。逃げ隠れしてました。すみません。逃げ隠れされる心当たりはおありでしょうけどね。
「我はお前を育ててやった、親のような存在だと思っているのだがな。いい歳してまだ反抗期か? 遊んでやろうか?」
いいえ、結構です。
自分の身が可愛いので結構です。
「して、その者らはなんだ? 感じたことのない魔力を操る人間に、堕ちかけの龍とは。お前は魔王にでもなるつもりか?」
やめて下さい。それだけは本当にやめて下さい。魔王じゃありません。
精霊です!
水の精霊はどこかの水の中で生まれるんだけどね、俺は生まれる場所を間違えたんだよ。
この暇と力を持て余した水龍の目の前に生まれるなんてさ……。
そんでこの水龍にフーンの事を聞かれたから、包み隠さずに話したんだよ。
ずいぶんと興味があるみたいでね、フーンを預かりたいって言い出したんだよ。
「ちょっと待って下さいよ。それはさすがに刑が重すぎるでしょ。もういっそ死刑の方が優しいじゃないですか!」
って言ったんだけどね、聞いてもらえなかったわ。
だって水龍って龍だから、雷の魔法を使うんだよ!
もう、まんま最終兵器じゃない!
けどね、水龍にもちゃんと理由があるみたいなんだよ。
深い海の底でのみ生み出す事のできる宝石、深海石がなくなったらしくてさ。
言っちゃえば魔力の塊の宝石だよね。
使い道は色々。
けど、それを作れるのは人間の祈りだけなんだ。
人間が海の底に来なくなってから作られなくて、最後の一つもこの前、可哀想な幽霊にやってしまったってさ。
幽霊? まさか、あれの事かな?
たしかに深海石なら、魔物の核になるとは思うけどね。
ちなみにこのベベルの塔は「遺跡を有効活用してやっている」んだそうです。
まったくね……。
という訳で、フーンを置いて行く事にしたよ。
「人間のいない深海で罪滅ぼしがしたい」って本人の希望でもあるしね。
しかし、ひと月持つかな……。
早めに様子を見に来なきゃな。
それも水龍は計算に入れてそうで怖いな。
何かさせられるんだろうな、俺。
うわぁ……逃げ隠れしたい。
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