第4話 夏へ

 桜が終わり、楓が地味な花をつけ始めると北の大地にも本格的な春がやってきた。紡織部の活動も本格化し、湯気を上げる堆肥を切り返したり綿花畑を耕したりと農家のような作業が忙しくなる。わたしと茜は初等部の見学者たちの前でもそれなりのシャトル捌きを披露することができ、どうやら紡織部の一員らしく振る舞えるようになってきたところだった。

「ちびっこたち、可愛かったな」

「浅葱さん、懐かれておいででしたわね。『おねえさま、おねえさま』って小鴨みたいに」

「あんなに小さくてもハリスの生徒なんだよね。驚いた。悪ガキがいなくてみんなレディだったもん」

「ふふ。むしろ浅葱さんが子供に帰っていましたわ」

 太めの木綿糸でハンカチ大の布を織らせ、織ったその布でさらに草木染めを体験してもらった。そこまでは良かったのだが、染めた布を水に晒して洗っていたところで水遊び大会に発展してしまったのだ。子供たちには大好評ではあったけれど顧問の教師にお説教をもらってしまった。

 体験学習が終わって二週間が経つけれど、登校時には今でも小さなレディたちが飛びついてくるし、時には市販のハンカチや和紙を花で染めたプレゼントをくれたりもする。怒られた甲斐があったというものだ。

「あの子達、高等部に入ったらうちの部に来てくれるかな」

「大丈夫ですわ。きっと」

 そんな小さなイベントが過ぎると郭公かっこうの声が聞こえてくる季節になった。本州で春告げ鳥と言えばうぐいすらしいが北海道ではこの鳥だ。郭公の声を聞けば畑に霜が降りることはなくなると言われ、北海道アイヌは種蒔きの時期をこの鳥の訪れを見て決めたのだと、わたしたち外部生を意識したらしい授業で聞かされた。

 畑仕事は二年生の指導の元、一年生が作業の中心を担う。三年生は昨年から取り掛かっていたという卒業制作が本格化する頃合いで織機の前に座りっぱなしだ。校内や近隣の公園の樹木が剪定を受けるとなれば落とした枝葉を貰って草木染めをするし、ゼンマイやわらびが芽吹けばやはり摘んで染め物にする。一年生から三年生まで、それぞれの仕事が山積みになる。

 染めは楽しかった。ミョウバンや木灰もっかい媒染ばいせんに使い、染液せんえきとはかけはなれた発色をする糸や布に一喜一憂した。目が回るほど忙しい毎日だったけれど、染めの仕事には尽きない楽しさがあった。

 茜もわたしもクラブ活動一色の日々を過ごした。週に三日の活動日だけでは足りなかった。無農薬有機栽培の畑は毎日人手を必要としたし、大青や茜、紫の自生地を求めて山野を巡ることもした。大青はアイヌが使っていた藍の原料。茜や紫は伝統的な染料植物だ。季節には早かったけれど紡織部の部員が代々引き継いで来た植生マップの確認と新たな自生地を求めての散策だった。

 茜と共に過ごせてわたしは幸せだった。クラスでは大勢の友人に囲まれている彼女も放課後にはわたしだけの友人だ。茜にもっとも近しい位置を占めることができるのは誇らしかった。

 一方で教室でのわたしの位置は微妙だった。茜はおとなしいなりに一目置かれているクラスの核だ。その茜と、外部から加わって一月のわたしが朝の教室でプレゼント交換をし、髪をいじりあったり抱擁まがいのことをしたのは不評を買っていたらしい。馴れ馴れしい、というわけだ。おっとりとした校風だけにいじめと言えるほどにはエスカレートしなかったものの、教室でのわたしは明らかに浮いていた。他の外部入学の子たちが着実にクラスに溶け込んで行く中で、わたしだけが茜以外の友人を作れずにいた。

 茜はそんなわたしの面倒を良くみてくれたけれど、教室ではわたしを茜の友人と認める者はいない。茜がわたしに構うのは、慈悲深い茜が哀れみを施しているのだと思われているらしかった。教室に掲げられた扁額には「信仰と奉仕」とある。そう見えるということなのだろう。

 ――茜がいてくれて良かった。

 教室での孤立はきっかけこそ些細だったけれど、わたしの性格が呼んだものに違いなかった。茜がいればいい、と思ってしまい、新たな友人を作る努力を放棄していたのだ。

 この時点でわたしは茜に傾きすぎていた心のバランスを自覚すべきだったのかもしれない。けれど十五歳のわたしには自身を顧みることなどできず、日々を過ごすことで手一杯だった。

 そして教室で茜以外の友人を作れないまま、北国の短い夏休みが始まろうとしていた。終業式のその日は紡織部の活動もなく茜と並んで校舎を出たのだが、茜は校門へは向かわずにわたしと並んで寄宿舎への道へ踏み出した。

「あれ?」

「どうなさったの?」

 秋かと思うほど高い高い空の下。わたしはすっかり日焼けしてのようになっていた。茜はといえば出会った時と変わらない白さのままだ。

「こっち、寮だよ」

「ええ。明日から合宿ですもの」

 合宿があることは十分承知していた。合宿と言っても連日学校で機を織り、蚕の世話をするだけだ。遠征するわけではない。授業がないだけで一学期と変わらない毎日であるはずだった。わたしは首を捻る。

「なんでそんなに大荷物なの?」

「夏休みいっぱい寄宿舎にお邪魔することに……なっているのですけれど、浅葱さん、ご存じありませんの?」

 慌てて合宿のしおりを確かめる。確かにそう書かれていた。遠地に出かけるわけではないと聞き、合宿絡みの話題は聞き流していたのだ。

「毎日部活があるだけじゃなかったんだ……」

「ええ」

 茜は大きなボストンを提げてにこにこしていた。

「ええええっ!?」

 上空から鳶の鳴き声がのどかに降ってきた。


 合宿、と言っても京子部長もまだ寄宿舎には戻っておらず、一年生二人はどうすれば良いのかもわからないまま一息つくことになった。わたしの部屋だ。

「こちらが浅葱さんのベッド?」

 部屋は一方の側に二段ベッドが二組造り付けになっている。もう一方の側には勉強机が四つ。茜が示しているのは廊下側の下の段だ。寝具は起きぬけのままだった。脱ぎ散らかしたパジャマがだらしなく恥をさらしている。

 ――教えもしないのになんでわかるのかな。

 腰機や布を出したままの机ならばともかく。

「ええと。そうだ。飲み物、いる? レモン水と松葉サイダーとただのお水しかないけど」

「松葉サイダー?」

「壜に砂糖水と松葉を入れて日なたに放置したもの」

「それがサイダーですの?」

「気持ち炭酸が入ってる感じの砂糖水かな。松葉についている酵母で糖が発酵するんだって。糖を分解するときに二酸化炭素が出てサイダー風味になるわけ」

「……試してみますわ」

 茜はいつもの笑顔で頷き、わたしは廊下の共用冷蔵庫に向かう。思った通り、密造サイダーとレモン水が冷えていた。グラスに二つ、サイダーを満たして戻ると私服のワンピースに着替えた茜が文机――というよりは卓袱台に肘を突いて窓から外を眺めていた。座っていると空しか見えないはずだったが。

「あら。見覚えのあるコースター」

 バリエーションを覚えるためにせっせと織り、染めのサンプルにしたもののひとつだった。コースター以外に使い道の思いつかなかった練習台の布きれだ。

「静かですわね」

「うん」

 寄宿生たちのほとんどは実家に戻ったらしい。紡織部の先輩たちは寄宿舎のどこかにいるのかもしれなかったが、人の気配は薄い。遠く、校門の方角からはバスを待つ少女たちのおしゃべりが風に乗って途切れ途切れに聞こえてくる。

 とくん。とくん。とくん。

 なぜか緊張していた。茜を窺い見てはノースリーブの白いワンピースから覗く肌に視線が吸い寄せられそうになり、慌てて目を逸らす。制服よりも露出の大きな胸元が直視することをためらわせた。風が抜けるよう、ドアを開け放しておいて良かったと思う。二人きりの密室でこの沈黙は重い。

 ふと顔を上げると茜がこちらに視線を据えていた。

「……どうかした?」

は美人ですわね」

 呼び捨てにされて心臓が跳ね上がった。茜の声にも表情にも特に感情は窺えない。わたしの方からはいつも「茜」と呼び捨てにしていたが、彼女は誰に対しても敬称付でしか名を呼ばないはずだった。

 その茜がわたしを呼び捨てにしている。

「持ち上げても何も出ないよ」

 冗談めかしてはみたものの声が掠れた。座卓に肘を突き、組んだ両手の上に顎を乗せた茜からは表情らしきものは読み取れなかった。視線はこちらに据えられたまま揺らぎもしない。

「……茜?」

 迷いなく命じるような調子で、あ・さ・ぎ、と区切るように名を呼ぶ。その唇がいつもよりも艶やかなことに気づいた。グロスのリップクリームだろうか。これまで茜がそんなものをつけているのを見た記憶はなかった。

 艶やかな唇が薄く笑んだ。それはわたしの記憶にある茜のキリスト者らしい微笑みではなく、妖艶と言ってもいい毒を含んでいそうに見えた。

 ――恐い。

 快晴の正午前だというのに部屋が奇妙に薄暗い。真っ直ぐに据えられた茜の黒い瞳は瞳孔が底光りしているような気がした。七月末の陽射しはきつく制服で外を歩けば五分と経たずに額に汗が浮かんだけれど、風の抜けるこの部屋は心地良い涼しさであったはずだ。なのに今のわたしは冷たい汗を滲ませている。胸の間に伝う汗の滴の感触が一層の緊張をもたらした。

 ――どうしよう。

 何が起きたのかはわからない。けれど、何かが起きているのだけは確かだった。目の前で薄く微笑んでいる茜はわたしの知らない茜だった。彼女がいつも纏っていたはずのふうわりとした空気はどこかへ消え失せ、圧力を伴った視線がわたしを見据えている。蛇に睨まれた蛙――などというものは見たこともなかったが、そんな心地だった。

 突如、その呪縛が破られた。

「おうい。高野、いるかい。お昼どうしようか?」

 京子部長が部屋の入口にもたれかかって開いたドアをノックしていた。第三者の登場で茜は視線を外し、わたしは束縛を解かれた気分で息を吐く。

「おや。向井、遊びに来てた?」

「いえ。明日から合宿じゃないですか」

 おかしな空気を払拭しようと、茜が答えるより先にわたしは明るい声を出した。

「うん。だから合宿は明日から。今日は休み」

「…………」

 三人の間に沈黙が落ちる。ややあって、茜がいつもののんびりとした声で呟く。

「明日から合宿ですから今日からお泊まりではありませんの?」

 再度の短い沈黙の後、京子部長が噴き出す。

「今日から合宿じゃ実家の親御さんに成績表をお見せできないでしょうが。向井はしっかり者のくせに妙なところが抜けているというか、お嬢さんらしいというか。高野も気づかなかったのか」

 傑作、と笑いこける部長にわたしと茜は目を見合わせる。先ほどのあの奇妙な空気はすでにどこかに霧散していた。

 ――さっきの茜は。

 茜の松葉サイダーを一息で干してしまった部長と、飲み物を横取りされて抗議の声を上げている茜を見て思う。

 ――錯覚か思い違いだよね。

 そう思いたかった。


 その晩。食事と後片付け、掃除洗濯と一通りの家事を済ませてシャワーを浴びると紡織部の三人は娯楽室に夏休みの課題を持って集まった。合宿中の寝泊まりは大部屋であるこの娯楽室で行うのだと言う。

「一日早いけど合宿開始だな」

「寄宿生も雑魚寝するんですか? 自分のベッドがあるのに」

「じゃなきゃ合宿にならんだろう。夏休み丸々だからね。『部活のせいで宿題できませんでした』なんて言わせないために夕食後は勉強もするぞ。課題は一週間で片付けてその後は一学期の復習。三年のこの時期に機を織っていられるよう、少ない時間で効率良く勉強するコツを掴んでおきな」

 教えてやるから、と言った京子部長は一時間半でぴたりと学習時間の終了を宣言した。普段鳴っていた「自習の鐘」みたいだ。

「そうだ。京子先輩。あれ見ましょうよ。あれ。――茜は寄宿舎初めてだよね」

「あれか」

 部長とわたしは頷きあって茜を振り返る。上着一枚と飲み物を手に、茜を寄宿舎の屋上へと案内する。

「何かしら。天体観測?」

 地元民の茜も星空は見慣れているだろう。

 一足先に屋上へ出た部長に声をかける。

「京子先輩、どうです?」

「ばっちり」

 かたかたと木のサンダルを鳴らしながら歩み寄り、京子部長の隣に並ぶ。茜もわたしに倣い、三人で手すりにもたれかかった。

「わあ」

「えへへ。どうだ」

「なんで高野が得意げにする」

 函館山からの景色と違い、学校のあるこの場所は函館湾を囲む都市部からは山ひとつ隔てられていて見えるのはあまり活気のない市街の外縁だけだ。けれどここからは海峡の太平洋側漁場が正面にあった。星よりもずっと明るい漁り火の列が灯火のほとんどない景色の中に点々と浮かんでいた。

「素敵」

 普段ならば生徒たちの生活の気配が屋上まで伝わってくるのだが、寮に残ったのはわたしたちを含めて一桁の人数であるらしい。まだ九時を回ったばかりだというのに深夜のように静まりかえっている。日々の生活を分刻みで知らせるチャイムも鳴らない。

「ひい、ふう、みい……」

 茜が沖合に浮かぶ漁り火を数えようとして五つほどでやめた。

「寄宿舎からの眺めがこんなに素敵だなんて知りませんでしたわ」

「ちなみに屋上に出るときは大きな物音を立てながら上がってくるのがマナーだ」

 と、チェシャ猫笑いを浮かべているのがわかる声音で部長。

「どういうことでしょうか」

「人目を忍んで逢瀬を楽しんでいる恋人同士がいたりするからだな」

「まあ。天の川の下でロマンチックですわ」

「だとさ、高野」

「どうしてそこでわたしに振るんです」

「さあねえ。今夜は星もきれいだな」

 振り仰げば確かに満天の星空だった。天の川もくっきりと夜空を横断している。ミルキーウェイと呼びたくなる光景だ。

 ――ロマンチック?

 こんな星空の下で恋人と二人過ごすのは確かにロマンチックかもしれない。けれど、と思う。

 ――女子寮って環境は気にしないのだろうか。

 横目で窺った茜は天を仰いでいた。反らされた喉が白く星明かりを受けている。口に氷でも含んでいたのだろうか、こくりと蠢いたその喉元が艶めかしさを感じてしまい、いたたまれずに視線を逸らす。

 闇の中に灯る漁り火も、空を横切る天の川も、思春期の少女たちを無口にさせるのかもしれない。三人の織り子は黙り込んだまま三十分も夜空を見上げていた。京子部長が解散を命じたころにはすっかり体が冷えきっていた。

「浅葱さん」

 明日は早いからと、布団へ入ってしばらくしてしたところで茜から声がかかった。照明はすでに消している。隣では京子部長が早くも寝息を立てていた。

「ん?」

「浅葱さんは京子さまと仲がよろしいんですのね」

「まあ、同じ寄宿生だし、勉強も時々みてもらってるし」

「それでかしら。部でも呼吸が揃いますし、今日見ていてもちょっとした仕草で意志が通じますし。羨ましかったですわ」

 ――羨ましい?

 確かにわたしは茜に対しては気安くなり過ぎないよう、友人としての節度を守るよう気を使っている分、微妙に距離を取る接し方になっていたかもしれない。対して京子部長には、後輩として特に目をかけてもらっているという自覚もあった。一番身近な上級生であることは間違いない。甘えてしまっていたのかもしれない。

「茜も京子先輩には目をかけてもらってるのに。二年の先輩達が『一年ばかり可愛がるんだから』ってこぼしてたよ。この間」

「違いますわ。羨ましいのは京子さまに目をかけてもらっていることではなくて、お二人の関係です。阿吽の呼吸に少し妬けましたの」

「へ?」

「だって、私、浅葱さんの一番のお友だちのつもりでしたのに」

 レースのカーテン越しに射す月星明かりで部屋はほのかに明るい。わたしは枕に頭を載せていたずらっぽく笑う茜をまじまじと見つめてしまった。今日の茜は意外な面をいくつも見せる。

「茜は、大切な友達だよ」

 親友と言う言葉を避けたのは照れくさかったからだ。それに当の本人に向かって使うには、その言葉は少しばかり大仰に過ぎる気がした。

「わたし、これまでちゃんとした友達って一人も作れなかった。高校に入ったら胸を張って友達だって言える子を作ろうって決めてたんだ。だから、茜を見つけたときは嬉しかったよ。初めて友達になりたいって思えた子だったんだもん。だから紡織部にも入ったし、我ながらずいぶん頑張っちゃった。

 ……やだな。わたし、なんか恥ずかしいこと言っちゃってる」

 茜が声を抑えて笑う。夏がけの薄い布団の中に茜の手が忍び込んできた。少し驚いたけれど、軽く握り締められた指先を握り返す。

「ハリスには幼稚舎から通っていますのに、私もずっと友達が作れずにいましたの」

「茜、クラスではみんなに慕われているのに」

「学校では仲良くしてくださるのですが、学外でおつきあいのあるお友だちは初等部以来ですわ」

 学外、と言っても部活絡みで近所の山を散策したり、下校する茜を誘って買い物に付き合ってもらったりした程度だ。茜の言葉は意外だった。

「なんでだろう。茜みたいな子なら友達になりたがる子も多いんじゃない?」

「ふふ。ありがとうございます。でも、私は浅葱さんがお友だちでいてくだされば満足です」

 握られた指先に軽く力が込められた。これほど効き目のある殺し文句もない。目眩を覚えるほど嬉しかった。

「高校の三年間ってきっとあっという間だよね。入学式なんてついこの間のことみたいなのに、もう夏休み」

「部活動ばかりの毎日でしたわ」

「きっとこれからもね」

 二人でくすくすと笑い合う。週に三日のはずの活動日は、気づいてみれば週末以外の毎日に変わっていた。運動部と変わらない。

「合宿中も日曜日はお休みだよね。さすがに」

「だと思いますわ」

「買い物、行こうよ。服とか可愛いものを買いに。映画を見たり、遊園地に行ったり、おいしい物を食べたり」

「ふふっ。楽しそうですわ。でも、遊園地はあまりお勧めできないかも」

「苦手?」

「どうかしら。函館にある遊園地って歩くような速度で走るミニ鉄道とか、梢よりも低い観覧車しかありませんもの」

「そっか。でも、茜とならレジャー施設でなくても楽しいかも。函館山の展望台、すっごく良かったもん」

「屋上から眺めた漁り火も素敵でしたわ」

 結局、と笑い合う。

「二人で行けばどこも楽しいのかな」

「一人だと寂しいですし、大勢で行っては感動も台無しですし」

「ひとつだけわかったことがある」

「なんですの?」

「わたしたちは高いところが好き」

 ぷ、と茜が小さく噴き出した。

「違いありませんわ。次は五稜郭タワーかしら」

「目指せ北海道の展望台全制覇」

 小声で交わされるたわいない会話と共に夜が更けた。昼間に恐ろしさを感じた茜はわたしの勘違いなのだと、そう、納得できる時間を過ごした。

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