第190話 夢

「今日は、いろんなことがあったね」

 はるが天井を見上げて言った。

「………」

 日高は俯せになったまま、無言で小さく頷いた。

「やっぱりさー」

 はるが話を続けようとすると。

 白い、日高の腕が伸びて来て、はるの胸に触れた。

「ねえ…」

「ん?」

「はるちゃん、体力スゴくない?何でもないの…?」

「え? ああ、うん、大丈夫」

 はるは、日高の首すじの汗を、手の甲で拭って微笑わらった。

(マジか…)

 日高の心情には気づかないようで、

「やっぱ社長、『ここ座れ』って言ったねー!」

 はるは笑顔のまま、そう続けた。

(息すら、乱れてないや)

 これが二歳差の現実なのか。

 そんなことを思ってじっとはるを見つめていたら。

 急に眠気が襲って来て、はるの胸に手を置いたまま、日高は眠りに落ちていった。


 やがて、

「……あれっ」

 日高が寝入ってしまったことにやっと気づいたはるが、日高の寝顔を見つめた。

(……可愛い)

 寝顔なんて、久しぶりに見た。

 この人以上に好きになった人も。

 この人以上に綺麗だと思った人も。

 この人以上に夢中になった人もいなかった。

「ずっと独り言、言っちゃってたじゃん…」

 日高の腕を取って、戻してあげた。

 そして、眠っている日高の頰に、肩に、唇を押し当てた。

(どうしよう…。どんどん好きになっていっちゃう)

 人差し指で、日高の少しのぞいている鎖骨に触れた。

(最近、また少し痩せたのかな)

 華奢な体が、どこか日高を自分より年下に感じてしまうほどだった。

「大好き、大好き。大好き」

 耳元で囁いた。

「日高のこと、大好きなの……」

 そう言って。

 もう一度囁こうと思ったら。

 はるにも眠気が襲ってきて。

 胸に頰を押し当てるようにして。

 眠ってしまった。



 翌朝。

 はるが紅茶を淹れていたら。

 すごい申し訳なさそうな表情かおをして、日高が起きてきて。

 ソファを動かして直すや、きちんと正座をした。

「どうしたの?」

「はるちゃん、ゴメンなさい」

 日高が、ぺこりと頭を下げた。

「祥子さんと浮気する夢、見ちゃった」

「………」

 どういう表情かおをしていいかわからなくて。

「ん……まあ、夢だしね」

 目線をそらしたら。

「冬とも浮気する夢見た。ちょっとハードなやつ。ゴメン」

 さらに日高が頭を下げた。

「ゆ、夢ってさ、『気をつけてねー』って、お空からのアドバイスなんだよ。そうならないようにねーって。だから、悪夢でも、変な夢でも、起きたら、『気をつけよー。ありがとうございまーす』って思えばいいんだよ」

 一息に、はるが言ったら。

「はる凄い。天使みたい」

 屈託のない笑顔で、日高が両手を広げて抱きついてきた。

「う、う、うん」

 日高は、はるの言葉で、キャアキャア言って安心してたけど。

(ゴメン、日高。それたぶん、私が悪いの)

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