第183話 総会

 -YOSHIMURA本社 如月流総会-


「はるちゃんは、青葉会長の右に座ってね。左には私が座るから」

「……はい」

 小さくはるは頷いた。

 ロビーには、有名な各流派の会長や師範の方々がすでに到着していて、YOSHIMURAのスタッフ総出でもてなしていた。

 はるはちらっと、末席に用意された名札を見た。

 -如月日高-

 そう、書かれていた。

 日高が来るか、わからない。

 けれど、数百年ぶりに、如月流家元が誕生した以上。

 各流派の上位に位置する如月家の当主を披露し、その運営、その他の指針を、各流派の会長や如月流の師範たちが居並ぶこの場で決定し、全ての権力を祥子が掌握するつもりでいた。


 やがて、定刻になった。

 青葉を先頭に、会場には各派の会長、師範たちが姿を見せ、それぞれ指定された席についた。

(あっ)

 最後に入って来たのは、日高だった。

 そして、青葉会長は上座中央に座った。

「では」

 一礼して、祥子が挨拶を述べ、次にはるも家元としての挨拶をし、静かに座った。

「会長」

 祥子は青葉の前へ一枚の書を差し出した。

「本日、如月の総意として署名捺印して頂きたい書類です。一項ずつ上げていきますので」

 そこには、〈如月春花二十一世家元事項〉と書かれた数々の項目があった。

 その中には、はるの改名や事務所移籍なども、もちろん含まれていた。

 ここで青葉が署名捺印をすれば、はるの一身は全てYOSHIMURAに一任されてしまう。


 はるは日高を見た。

 日高は、配られた書を湖のように静かな表情で、見つめているだけだった。



 -長野県某所-


「あ、そろそろかなー」

 時計を見ながら、北川が不敵な笑みを浮かべた。

「ハイ先生、コーヒー」

「ありがと」

「え? 何、何?」

 冬と姫花が肘をついて、北川を見つめた。

「演出家をナメるから、こーゆー事になんのよ」

「だから、だから何なの?」

 冬が身を乗り出した。

「実はね……」


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