第179話 溢れる想い

 はるが、静かに言葉を継いだ。

「ごめんね。もし、プロポーズが成功したら、ちゃんと説明して謝ろうと思ってたの」

「そっか」

 日高は、はるに手を伸ばして抱きしめた。

「あとね…」

 甘えたように、はるが日高を見上げた。

「嫌われたくなかったの。ボロを出したくなかったから」

「ボロ?」

「うん」

 恥ずかしそうに、はるは頷いた。

「何か……。私が日高とそういう事をしていて…何か失敗しちゃったりとかして、日高が私に幻滅するのが嫌だったの…」

「………」

 日高には、衝撃だった。

 高校時代にはると出会って、何年も一緒に暮らしてきて、それなりにはるのことを知っているつもりだった。

 でも。

 今、初めて、はるの心の奥を見た気がした。

(はるは、本当に私のことが好きだったんだ…)

 言葉が出ない日高に。

「日高、ごめんね」

 もう一度はるはそう言って、日高の背に手を回して来た。

「そっか」

 日高は、言葉少なに頷いた。

「はるのこと、今までよりもっともっと好きになったよ」

「えっ⁉︎」

「大好きだよ、はる」

 日高は、はるの唇を押し開いた。

 シルク生地の冷たさを指に感じながら、はるの左胸に手をあてた。

 はるの鼓動が速い。

 しばらくして、はるから離れた日高が言った。

「はる。はるが恥ずかしいって思うようなことは、むしろ全て私への愛情だって思うから大丈夫なんだよ。ボロが出たんじゃなくて、はるの体から私への愛情が溢れ出てるだけなの。体が『愛している』って叫んでるんだよ。だから、むしろ私は嬉しいんだよ」

「…そ、そうなの…」

「そうだよ。私だって同じだから」

 日高は優しく微笑わらった。

「ね。大丈夫なの」

 そう言って。

 はるの首すじにキスをした。

「ねえ、日高。私…、私…」

 はるが、言葉にならない言葉を、日高に投げかけた。

「わかってる……」

 日高の瞳も濡れていた。



 -翌朝-


「バスケ部とかの応援の団幕みたいだねー」

 コーヒーを飲みながら、日高が言った。

「あとさ、高校とかインターハイ出場したりすると、校庭の柵とかにあるよね」

「あー、あるね」

 二人の目の前で。

 真っ白いベッドシーツが、ベランダで、風にはためいていた。

 コーヒーをソファで、二人で飲みながら。

 二人は、春の風を部屋中に入れていて。

 そしてなぜか、楽しそうだった。

 日高にもたれかかりながら、はるが言った。

「明日も晴れるといいなぁ……」



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